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「冥加、聞いていた?」

窓際に寄りかかり佇んでいると天宮が話しかけてきていた。
確か先ほどまでいなかったはずだ。

「その顔は僕が来た事にも気づいてなかったみたいだね」

わかりきっている事を返す気になれなかった。
演奏が終わり譜面を見ながら各自苦手なパートの練習をはじめた部員達に目をやる。

「みんな、今日は解散して各自練習して」
「天宮?」

天宮の勝手な指示に部員達は片付けをはじめた。
その中から天宮が七海を呼ぶ。

「何でしょうか?」
「今日冥加は君達に何か言った?」
「七海、答えなくていい」

天宮が言おうとしてる事に察しがついて七海に答えなくていいと言う。
だが七海は戸惑いながら天宮と俺を交互に見たあと天宮に顔を向けた。

「冥加、逃げないよね」
「誰が逃げる。俺は用を思い出しただけだ」

二人の間を割って立ち去ろうとすると天宮に手で制された。

「あの……部長は練習の指示は出されたんですけどそれ以外はずっと無言でした。もしかして俺達の演奏に何かあるから言わないんじゃないかと……」
「つまり冥加が怒ってると思ったわけだね」
「怒ってなどいない」
「でも君がずっと無言で見てれば不機嫌に見えてしまうよ」
「体調が悪いんですか?」
「体調は悪くない」

何故こんな言われようをしなくてはいけないのか。このまま無視して理事長室へ行こうと思いかけた。

「ずっと何かを考えこんでるんだよね」
「そうなんですか!?部長がずっと考えこむほどの事なんて一体どんな事なんだろう」
「そんなの決まってるよ」
「天宮、お前何を知っている」

部室内には俺達しか残っていなかった。
他には誰もいないとはいえ口にはされたくない。そもそも天宮が知っているはずがない。

「基本即決断、即行動の君がそんなに考えこむなんて小日向さんの事に決まってるじゃないか」
「なるほど」
「七海、納得するところではない」
「す、すみませんっ」

考えこんでなどいないはずなのに何故小日向関連だと天宮は何故わかるのか。

「考えこんでなどいない」
「相談相手になるつもりもないから深くは聞かないよ」
「天宮先輩それでいいんですか……?」
「いいも何もどうしようもないからね」
「どういう意味だ?」
「そのままの意味だよ」

天宮はそれだけ言って部室を出て行った。
七海に練習をするよう告げて理事長室へ向かうために部室を出た。

『冥加さんの事が好きなんです』

数日前に告げられた小日向かなでの言葉が幾度となくよぎる。
その度に不明瞭な感情が浮かんでいく。そんなものは必要ない。

「どうしようもない」

天宮の言葉の意味がわかった。
俺はそれを認めてしまえば俺でいられる自信がない。
俺は俺でなければ小日向かなでと同じ場所には立てない。
それが全てで、そうして生きてきたのだから。

「お前は俺に何を望む……」

理事長室の前まで来て立ち止まった。
このまま小日向かなでの元へ行けばいいのだろうか。
しかしそうしてどうなる。

「何を馬鹿な事を」

甘い夢など見ない。
俺達はそんな一過性のものではないはず。それはお前もわかっているだろう。
死ぬまで俺はお前に囚われ続ける。
ただそれだけだ。
お前が俺の全てなのだから。



H23.10.5

お前が俺の全て
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