novel top ▲
学校が終わり寮に真っ直ぐ帰宅せずに公園に立ち寄りベンチに座っていた。
「冥加さん、困ってたよね……」
夏のコンクールが終わってから冥加さんに会いに行く事が多くなった。
もっと知りたかった。7年は長く感じて、冥加さんが7年前のコンクールでのあの人だとは知らずにいて思い出した。あの時とは違う。冥加さんの音色に惹かれたからこそ負けられなかった。
そのコンクールも終わって、冥加さんの奏でる愛のあいさつに導かれてこの音色を弾く人を知りたくなった。
何故会いに来るのかと問われて最初はわからなかったけれどふとわかってしまった。
『冥加さんの事が好きなんです』
言ってどうにかなるわけでもないのにどうして言ってしまったのだろう。
「おい、あんた」
「は、はいっ」
突然呼び掛けられて驚いてしまう。
「氷渡くん?」
振り返ると氷渡くんが後ろにいた。知っている人で安心する。この間天音学園に行った時に話ができてそれからたまに話しかけてくれるようになった。
「もう陽が暮れる。一人なら帰った方がいい」
「あ、そうだね!暗くなるのあっという間だから」
考え事をしているうちに陽はだいぶ落ちていた。寮のみんなに心配をかけてしまう。
「……冥加部長と何かあったのか?」
「冥加さんと?」
立ち上がりヴァイオリンケースと鞄を手にすると小さく問いかけられた。聞き返すと視線を逸らされてしまう。
「あの人があんな考え込むなんてよっぽどの事があったのかと思ったら、あんたもこんなところで暗い顔してるし」
「冥加さんが考えこむ……」
俯きやっぱり私のせいだろうかと思う。でも謝りに行くのも何か違うしどうしたらいいのかわからずに数日考えていた。
「あんたを間違えて拉致した時に冥加部長が来て驚いたんだ」
「それは私もだよ」
夏の出来事を思い出す。この間謝ってくれても氷渡くんは気にしているみたいで暗い顔をしていた。あの時は怖かったけど氷渡くんがアンサンブルメンバーに入りたくてチェロが好きなこともわかっているから今は怖くない。
「あの時の冥加部長は俺の知ってる冥加部長であってそうじゃなかった」
「冥加さんだったよ?」
「それはそうなんだけど何て言うか必死でさ」
氷渡くんが何かを伝えたいのはわかるけれど何かがわからずに首を傾げる。
「うまく言えないけどあんたはきっと冥加部長にとって他とは違うんだ」
「それは……」
きっとそうだろう。冥加さんは7年私を憎んできた。それは他の人とは違う。
「夏のコンクールで星奏学院に負けても悔しそうにはしてないし……悪い、冥加部長を俺がわかるはずもないんだけどさ。気になって」
「ううん、声をかけてくれて嬉しいよ」
「あんたやっぱり変わってるな」
「そうかな?こうしてお話できるようになってよかった」
「そうか。引き留めて悪いな。早く帰った方がいい」
「うん、ありがとう氷渡くん。またね」
帰るよう促され足を踏み出して告げると氷渡くんも返してくれた。
寮に向けて歩き出す。
歩きながら微かに見え始めた星を見上げる。
「このままじゃ駄目だよね」
私はまた冥加さんと会いたい会い続けたいと思って動けずにいるのだと思う。
でもこのままでは冥加さんを困らせたままになってしまう。
告白みたいになってしまったのだから答えを聞くべきなのだろう。
「……せめて音色は聞き続けたいな」
7年私が冥加さんを苦しめてしまった。夏のコンクールで終わったのだからこれからは苦しむ必要もないし困らせてはいけない。
胸が痛む気がしたけれど気にしないようにヴァイオリンケースと鞄を持つ手に力を入れ寮へ向かう足を早めた。
H25.6.18
胸が痛む気がしたけれど
prevU
next