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「和樹さん遅れるのか」
携帯のメールを確認し返信し終えるとズボンのポケットに突っ込んだ。
遅れるなら先に星奏学院に向かっていると送った。待ち合わせ場所であった駅前から離れるため歩き出す。
「誰か弾いてる?」
すぐにヴァイオリンの音色が聞こえた。夏のコンクール中で全国から集まってるせいか外で楽器を奏でる学生が多い。
「これは……」
聞いた事のある音色に足を進ませていく。
弾いている人物の姿を確認した瞬間演奏が終わり拍手が起こった。
その拍手に答える気配は見せず淡々と楽器をしまっていた。その人物に見慣れた制服姿の少女が話しかけていた。
「ありがとうございます」
「貴様が俺に物を渡した結果だ。礼はいらん」
「それでも嬉しかったので」
「対戦相手の演奏を聞いて喜ぶな」
「冥加さんの演奏を聞くと更に負けたくなくなるんです」
「……聞かずとも負ける気はないだろう」
「はいっ!」
「俺も負ける気はない。貴様をステージ上で敗北させるのは俺だ。よく覚えておけ、小日向かなで」
演奏者は帰り仕度をすませ去っていった。
「何あれ……」
漏れ聞こえた会話についそんな声を漏らしてしまう。
「衛藤さん?」
去っていく姿を呆然と見ていると作業演奏者と話していた少女、小日向かなでが近寄ってきた。
「冥加玲士に苛められてんの?」
「いじめ?」
小日向の反応から違う事はわかるし一応会話はしていた。
「まあその反応だと違うんだろうけど。知り合いなんだ?」
「はい」
「よく知らないけど何か外で弾くタイプに見えないよね」
「私が冥加さんに弾いてほしいってお願いしたんです」
「それで弾くのも意外……」
「そうですか?」
演奏にも出ているけれど冥加玲士の演奏は隙がなく迫力がある。あの歳であんな演奏をするなんてと会場で聞いた時は驚いた。実力はある。でも俺の好みではない。
「冥加玲士の演奏好きなの?」
「はい!」
強く頷かれ満面の笑顔まで向けられてしまう。好みにとやかくは言わないけど嬉しそうに頷く演奏だろうか。
「衛藤さんは冥加さんの演奏は……」
「好みではないね。何て言うか重い。曲によって音色は変わるけど冥加玲士は音を愛してるというより音楽しかないような自身を追い詰めてるみたいな気がしてくる。俺個人の感想だけど」
さすがに聞きにくい様子の小日向に気にしないよう思ったままを告げる。すると小日向の表情が曇った。
「小日向?」
「素敵な音色には違いないんです……でも苦しめてるものがあるんですよね」
視線を俯け独り言のように呟く。
先程の会話から察するに二人には何かしらの事情があるのだろう。互いに負けないと宣言をしているところからライバルなのだろうか。
「よくわからないけどさ、学校に通ってる内は学ぶ事も多いし悩みもある。卒業しても変わらないけどその歳だからできることできないこともあるから」
「衛藤さんもそうだったんですか?」
「そうだった。だから先に繋げられてる。とりあえず小日向は今は夏のコンクールだろ。冥加玲士が相手なら気は抜けないし」
「そうですね!学院に戻って練習しないと」
明るい笑顔が戻り安心する。
「俺も学院に用事があるんだ。一緒に行くか」
「はいっ」
小日向の返事を合図に学院に歩き出した。
H25.6.18
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