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「……誕生日」

寮への帰り道、小日向が呟いた。
今日は誰かの誕生日だったかと問おうとすると袖を掴まれて顔が迫ってきた。

「律くんがこっちに来てからちゃんとお祝いしてない!」

どうやら俺の誕生日の事を言ってるらしい。
小日向がこちらに来たのは夏。俺の誕生日の後だったため俺がこちらに来てからは祝ってないという事だろう。

「毎年誕生日にはプレゼントを送ってくれただろう」
「そうだけど、直にお祝いを……」

威勢よく話していたが次第に弱々しくなり俯いてしまった。
その様子とは反対に袖を掴む手は強くなった。

「どうした?」
「来年は律くん、星奏にいないんだなって思って」

小日向がどうしてそんなに悲しそうにするのがわからなかった。
でも寂しそうにする彼女をそのままにしたくはなくて、頭を撫でた。

「律くん……」

俺を上げた小日向は今にも泣きそうな表情をしていた。

「来年は直接行ってお祝いする。律くんがどこにいても」
「小日向が来る前に俺が行く」

小日向は少し驚いた表情を見せて、はにかんだ。
とても嬉しそうに。

「だがその時は連絡してくれ。俺は自分の誕生日の当日、覚えていた事がない」
「え?」

先程とはまた違う驚きの表情を見せて、笑う。
掴む腕に顔を寄せてくすくすと笑っていた。服越しにかかる息が少し熱く感じる。

「律くんらしいね」

今の会話から俺らしさを俺自身は見いだせなかったが、小日向が言うなら俺らしさというものがあったのだろう。

「でも連絡しないで会いに行って驚かせるのもいいよね」
「そういうものか?」
「うん」

この地を長期間離れる事はないだろう。だが今のように毎日会えるわけでもない。
こうして毎日する会話も彼女自身共会えなくなる。
それを寂しく感じた。
小日向ももしかしたら先程悲しそうにしていたのは同じ気持ちだったからなのだろうか。

「律くん」

小日向の声に我に返る。
小日向は微笑んでいた。先程笑っていたがそれとも違う笑み。毎日彼女は色々な表情を見せてくれる。それは音にも表れていた。

「来年も再来年もずっと先もお祝いさせてね」

袖を掴んでいた手は腕に柔らかく触れていた。
その手の温もりと言葉に包まれているような感覚になる。
寂しさを拭うようなその感覚に頷いた。



H22.6.6

寂しさを拭うような
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