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入学して数日。授業も午前で終わり、普通科棟を歩いていた。

「普通確認するだろ」

文句を言いつつ携帯をまた確認する。
メールも着信もなし。
今日は学校も半日だしどこか行こうかと思ってメールをしたのに返信がない。
携帯を閉じ上着のポケットに突っ込むと前方に見慣れた人を発見した。
あちらもこちらに気付き目が合う。

「衛藤くん、普通科棟に来るなんてどうしたの?」

微笑みながら近づいてくる人物に思わず目を逸らした。
それでなくても音楽科が普通科棟にいるだけに目立ってるのに余計目立つ。

「それじゃ」
「えっ、待ってよ、衛藤くん」

横切って行こうとすると肩を掴まれて止められた。
香穂子には会えないのに何で他の奴には会うんだ。

「なに、葵さん」
「僕が聞いたはずなんだけどな」

苦笑しながら肩から手を離す。
向き直るとまた葵さんは微笑みを浮かべた。王子様というのがしっくりきそうな微笑みだ。ヴィオラも弾いてアンサンブルにも参加したからか音楽科でも人気があるらしい。

「香穂子を探してるんだけど、葵さん知らない?クラスの場所教えてくれるだけでもいいんだけど」

クラスは聞いてはいても場所までは知らなかった。
周ってれば見つけられるだろうと思ってたけど知り合いに会ったなら聞いた方が早い。

「日野さん?日野さんなら職員室にいるはずだよ。すぐ戻ると思うから教室に行こうか。僕も戻るところだったし」

俺を横切り教室に向かおうとする。
違和感に気付いて振り返り声をかける。

「葵さんも戻るってまさか香穂子と同じクラス?」
「そうだよ」

振り返った葵さんは心底嬉しそうに笑った。
今までの王子様を彷彿とさせる微笑みとは違う。むしろそんなイメージ壊れそうな笑顔だ。

「2年の時も同じクラスじゃなかった?」
「うん、3年も同じクラスで光栄だよ」

葵さんが香穂子の音に惹かれて学院に転入してきたというのは聞いていた。
香穂子の話になると昔や普段とは違う雰囲気になるのもわかってきていた。
ただ香穂子の音に心酔してるだけならいい。葵さんは香穂子自身も気に入ってるのがわかるから何となく面白くなかった。

「衛藤くん?」
「やっぱりいい。職員室に行くから」

葵さんに背を向けて階段へ向かおうとする。

「衛藤くん、よければまた今の君の音を聞かせてね」

そんな言葉を掛けられ、振り返ると葵さんはやっぱり笑っていた。
よくわからない人だ。自分の限界を感じ一度は音楽から離れたのに戻ってきている。
今の葵さんの音は悪くはない。技術があるとは言えない。でも悪くはない。
そう思うのは俺が変わったのか葵さんが変わったのか。
共通する香穂子という存在がそんな事を考えさせた。

「機会があればね」

俺はそれだけ応えて階段を下りた。



H22.5.23

共通する存在
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