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「もう少し待ってて、ごめん、か」

メールの文面の最後を呟いて携帯を閉じた。
星奏学院の校門前で待ち合わせたものの待ち合わせた相手はまだ来ない。
夕暮れ時で下校する生徒も多く、俺を追い越していく。
一人の者もいれば、二人以上の者もいる。二種類の制服が校門から出ていくけどそれぞれグループを作っていてあまり二種類の制服が一緒にいるところを見ない。
同じ学院でも別々の学院に通ってるみたいだ。俺だって香穂子と会ってなければ普通科の生徒と知り合うなんて事もなかったろうけど。

「……去年の今頃もここにいたな」

香穂子と出会って、香穂子の音を知って、自分の中にずれが出た。思う通りに弾いているはずなのに納得がいかない。香穂子の音を知らなければこんなに苦しまずにすんだのにと逃げ出した。
でもそれは違う。何で苦しいんだと考えたら答えなんて簡単だった。いや、認めるのは簡単じゃなかったか。
逃げたままでいいはずがないし、答えが出たならあいつに会わなくちゃいけない。会いたい。
だからここで香穂子が出てくるのを待った。今も香穂子を待ってる。

「衛藤くん、待たせてごめんね!」

ぱたぱたと走る足音が聞こえたから来たかと思ったら横に香穂子が息を切らして現れた。

「今度はちゃんとわかったか」
「え?」
「去年は俺が呼び掛けても気付かなかったなって」

香穂子は息を整えつつしばし考えると俺が言ってる事が思いあたったのか頷いた。

「だってまさか衛藤くんが学ラン着てるなんて思わないしそれに中学生だったなんて更に思えないよ。……衛藤くん?」
「なに?」
「待たせちゃって怒ってる?」
「別に怒ってないけど……」

何でそんな事聞くのかと思ったけど俺が突然去年の話をしたからかと思う。
別に去年わからなかった事を責めてるわけでも今日待たせられた事を怒ってるわけでもない。
ただ一年でこんなに変わるのかと気付いただけだ。

「香穂子?」
「手、冷たい」

突然香穂子が手を掴んできてその手を凝視する。
香穂子の手は温かかった。

「どこか入ろう?」

繋いだ手を凝視する香穂子を見つめていると勢いよく顔を上げた香穂子が少し驚いた。
今更驚く距離でもないのに反応が面白くて可愛い。
だから手を繋いだままで離れられないのをいいことにわざと顔を近づけた。

「香穂子」
「な、なに?」
「どこか入る前にさ、あんたの音が聞きたい」

そう言うと香穂子の顔が離れて手が引かれて足を踏み出していた。

「なら早く行かなきゃ、陽が暮れる前に」

弾く場所を探して歩き出す香穂子の横に並ぶように歩を進める。
今年はどうするか悩んでいたクリスマスプレゼントが決まりそうだ。
一年前とは違うと自分でもわかる変化。でも変わらないのは彼女がそばにいる事。
それはきっとこれからも変わらないのだろう。



H22.12.10

変わらないのは彼女がそばにいる事
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