act.2最初の仕事


「あー。川の下の子です。加州清光。扱いづらいけど、性能はいい感じってね。
これから宜しく、主。」

さらさらの黒髪に長い襟足を一つにまとめたイケメン。
一瞬目を合わせるが、眩しく思いすぐに視線を下に落とした。

「何かと至らぬ所がありますが、宜しくお願いします。」

私は、床を見ながら短い挨拶を済ませた後に今日から住む本丸に足を進める。
この建物は、政府が中心に管理している市役所。その地下には、大きな鳥居のゲートと沢山の研究室がある。
鳥居の先は、テレビの様にいくつもの本丸があって必要に応じて繋がる場所が変わる。

キラキラ光るゲートをもの珍しそうに見る加州さんに目配せをして中に入る。
一瞬落ちるような感覚がした後目を開けると
門の前にいた。

膝くらいまで伸びた雑草と埋れるように立っている木造の屋敷。
イメージしとしたら森の奥の廃墟に等しい。お化けが出そう。

「うわー。凄い雑草。」

ボソッと加州さんが私の言葉を代弁してくれた。まさにその通り。

ガサガサと無言で雑草を踏み倒しながら本丸へ向かう。その後ろを付いてくる加州さん。
ようやく着いた玄関の見た目はそこまでボロくはなかった。
貰った鍵を差し込み回す。
ガラガラと引き戸を開けてみれば埃っぽい空気に咳が出た。

マジか。

中は家具一つ無く、至るところに埃が積もっていた。
歩いてきた廊下や部屋に私の足跡がクッキリとのこっている。
記念すべき初日の仕事は、掃除に決定。
何処から掃除しようかと計画を建てながら練り歩くと外で待っててもらってた加州さんから呼ばれた。

「主ー。荷物を届けに来たってー。」

玄関まで戻ると私の荷物と最低限の生活用品の入ったダンボールが積み重なっていた。
受け取りに指紋認証をして配達人と言うなのこんのすけは、帰っていった。

ヒールを履いて玄関口の荷物を漁り、汚れてもいい服と掃除用具だけ中から取り出してから玄関の引き戸を壁にしてスーツを着替えた。




「ん?て、え?!主いつきがえたの?!もしかして今?!」

着替えた私を見て驚いていた。

「はい。見られても別に何も思わないので。」

「あ、そ、そう、なんだ・・・。」


何を思っているのか視線を逸らす加州さんの表情が少し寂しそうに見えた。
悪い事を言ってしまっただろうかと思いながらも雑巾とバケツを持って掃除を始める。
幸いそこまで広くはないようで、3LDKって所だ。
部屋から片付けて行けばすぐ終わる。
障子の張替えはあとまわし。襖と障子を全開にして雑巾とハタキ、掃除機で綺麗にしていく。床や天井はしっかりしているから板を貼り直したりはしなくて済みそう。

汚くなったバケツの水を取り替えに廊下に出ると加州さんが廊下の隅でうずくまっていた。


「どーしよ。主が掃除してるし俺も手伝うべきなんだろうけど・・・。汚れる事あんまりしたくないんだよなー。でも、このままだと埃の積もった部屋で過ごすことになるし・・・うー。」

独り言がただ漏れだよ加州さん。
時間は、かかるけど1人で出来ない事も無い・・・。

「加州さん。」

「っ!あ、主お、俺」

ギクッと方を揺らして即座に振り返った彼にそっぽを向いて言った。

「一番奥の部屋は掃除が終わってるのでそこで待っててください。」

「え。う、うん。わかった。」

・・・

夕方まで掛かってしまったが、屋敷は綺麗になった。後は庭を何とかするだけだが、後々何かを増築させるためのスペースなのか結構広い。
正直芝刈機が欲しい。

「あ、主」

「加州さん。」

「荷物全部部屋に運んどいたよ。家具も一応。あと、外に出てた障子も張り替えといた。」

待てと言われたけれど居ても立っても居られなかったのだろう加州さん届いた荷物を全部しまってくれたらしい。

「あ、ありがとうございます。」

「後なにか手伝うことってある?」

「いえ、もう1人で出来るので大丈夫ですよ。」

軍手とゴミ袋を持って外にさっさとでる。
誰かと話すのは、苦手だな。
お客さんだったら仕事と割り切れるけど今回は、ずっと一緒にいる訳だからどう対応したらいいのかがわからない。
これからどうせっしていこう。
悶々とかんがえながら玄関前の雑草を引っこ抜いていく。


・・・


玄関からゲートの間が大分綺麗になった所にいい匂いがただよってきた。
匂いにつられて厨に足を運べば赤い着物と黒い袴に着替えた加州さんが立っていた。
私に気づくと照れ臭そうに笑う。

「主が頑張ってたから簡単だけどご飯つくってみた。1回休憩しよ。」

「は、はい。て、洗ってきます。」

「んー。」

パタパタと洗面所へ走る。
机に並んだホカホカご飯とお味噌汁。
ずっと掃除と雑草とりに集中していた為お腹がすいてることをすっかり忘れていみたい。
切り傷だらけの手を洗い居間に向かった。

「おいしそうですね。料理したことあるんですか・・・?」

「主の荷物の中にあった本を少し借りてつくったんだよ。
主の為に何かして上げたかったから。ちょっと頑張ったんだよねー。」

「そ、そうなんですね。ありがとうございます。」

「この後俺も手伝うからさ、もうちょっと俺を頼ってよ。主。」

「は、はい。すみません。」

ご飯を食べて、食器を洗い草むしりを再開させる。
家の冷蔵庫や洗濯機は昼間よんだこんのすけに頼んでおいたのであとは、ここだけ終わらせるだけ。
終わったらのんびりする。
それだけを糧に二人でむしり続けた。






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