act.6 焦り


自炊用に持っていた料理本を何冊か広げて頭をかかえる。
初陣を終えた加州さんに豪華な食事をと思い、本を開きはしたが・・・。


いいものが思いつかない。
そもそも加州さんがいつ帰って来るのか分からないから買い物にも出られないし...。

なかなか決まらないメニューに唸っていると、何処からか鈴の音が鳴った。
正門がどこかに繋がった時に鳴るらしい。
時計を見ると加州さんが出陣してから、約3時間たっていた。

『あ、もうこんな時間!加州さんが帰ってきたんだ!』

とりあえずそのまま加州を出迎えに玄関へ行きうっすらと人影が浮かんだ戸をガラリと開けた。

ドシャッ

水気を含んだ重いものが自分にのしかかりバランスを崩す。
体を起こそうと手をかけるとベットりと両手に赤黒い血が付いた。
耳元でする荒い呼吸と血の匂いが私の思考を停止させていく。

『加州さ...ん?』

力も入らない震える手、ゆすりながら声をかける。
意識がハッキリしていないのか加州さんを少し強引にどかして、フラフラになりながら手入れの準備をする。

布団を敷いてから、加州さんを手入れ部屋まで引きずって運ぶ。
傷が深そうな上半身だけを脱がして、血塗れの手を洗う。
髪を一つに結い自分を奮い立たせた。

研修で、簡単に模倣した事があるだけ。
加州さんの様子を見ながらそーっと当ててみる。
時々痛そうに顔を歪めているけれど、傷はじょじょに塞がっていった。
加州さんの様子もさっきより大分マシになったようでホッと胸をなで下ろした。


手入れを終えて片付けに入ろうとした時、加州さんが目を覚ました。

「あ...るじ...?また、かっこ悪いとこ見せちゃった...かな... 。」

弱々しく笑う加州さんの周りには、さっきまで流していた血が赤い花のように広がっていて、痛々しくも綺麗に思えてしまった。

『そんな事、ないですよ。びっくりはしましたけど、ちゃんと帰ってきてくれただけで私は...』

声が震える。
視界がゆがむ。
ぐっと感情を押し込めて顔を上げた。

『か、加州さんが帰ってきてくれただけで嬉しいですから。』

ニコリと笑って見せた。
ご飯を作って来ますねと言いながら立ち上がりその部屋を後にした。

甘くみてたこの戦いを。
刀剣男士はこの戦いの道具に過ぎないと、説明をされた。
代わりはいくらでも作り出せると。
でも、あんな痛々しい姿見せられて割り切れる訳が無い。
加州さんを折らせないように、私が何とかしなくちゃ。

説明で言われていた言葉を思い出し彼らの扱いに苛立ちを感じはじめ力が入る。

私が今出来ることを。














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