「――騒がず、質問に答えて」
男が入ってきたのと同時に足をかけて上体を転がし、ドアを閉めながら男の喉元に剣を突き立てる。明るかった部屋から瞬時に真暗闇と化した部屋では、男の目ではまだ状況把握もままならないだろう。うつ伏せに倒れた男の両手を余った縄で縛り上げれば、立場は逆転した。
「くそが! 無事に帰れると思うな――っ!」
「すみません、手が滑りました」
突き立てていた剣を引き抜いて再び床を刺す。僅かに皮膚を切り裂いた感触。
身動きができないよう左肩に足を乗せながら、もう一度、同じ言葉を投げかけた。
「どうか騒がずに。船に何人いるかだけ、教えてほしいんです。命はお互い、惜しいでしょう」
こういう時の脅し文句の一つや二つ、ユーリから学んでおけばよかった。なんていったら、怒られそうだ。
生唾を飲み込み、渋る男の肩を踏む足に体重を乗せる。硬い骨が靴底と床の間で軋んだ。
「はやく」
「――っ二十四だよ!」
「魔導士は?」
「今はいねえ!」
魔導師がいないことは唯一の救いだろう。近接の対処をしながら遠隔から魔法を使われでもしたら逃げ場が無くなる。今はということは、もしかしたら戻ってくるのかもしれない。そうなる前に、なんとかしないと。これは好機だ。
きっと、ヤムライハたちが、見つけてくれるそれまでに。
分かりました、と返した後、脇に置いてあった土嚢を男の腰の上に乗せた。リトが男の両脇に一袋ずつ置いていく。これである程度動きは封じられただろう。
「最後に、火薬がこの部屋にはたくさんありましたね」
「おい、やめろ…船が沈むぞ!」
「そんなことしませんよ。ただ、あなたが動いてしまったら、どうなるかはわかりませんけどね。ご自分の上に何が乗っているか、知りたいですか?」
勿論、男の上には土嚢しか積んでいない。その上に、ランタンを置いていく。薄らと灯った火が、彼の恐怖心を焚きつけてくれるといい。それではと置いていこうとすれば、余計に騒ぎ立て始めてしまった。このままでは人が集まりかねない。
自身の腕を縛っていた縄を二重にし、彼の喚く口元に宛がった。後頭部できつく縛ってから、ようやく言葉が出なくなった彼を置いていった。
船内より、甲板に出てしまえばいいか。大胆な行動は凛々の明星譲りなのだろう。変形弓の本領も発揮できることも、何より上空から捜索されているなら騒いでいた方が分かりやすい。
「リト、いくよ」
ドアを開けて左右を確認するも廊下には誰もいない。右側はやはり甲板に続く階段のようで、空が少しだけ見えている。四段ほどの狭い階段だ、恐らく、船自体もそこまで大きくはないのだろう。リトの肩を寄せながら、ドアを後ろ手に閉める。存外、厚い作りのためか、呻く男の声は聞き取りづらかった。
壁に背を当てながら階段まで近づいていく。積み荷の陰には隠れているが、大凡五人が甲板で見張っているのが確認できた。恐らくマストに最低限一人は見張りがいるだろう。船員の半分以下がこの場にいるとみてよさそうだ。もう一度、階段下まで頭を引っ込める。
リトを背にしたまま戦うことは得策ではないだろう。であれば、彼にはどこかで事が終わるまで隠れてもらっていた方がいい。薄暗い廊下を見渡しながら、手近に散らばる木箱を適当に開けてみると、空の箱が一つ見つかった。足元にある布を取り出し、中を確認してもやはり空だ。
「ここに、隠れられる?」
「――だい、じょうぶ。でも、ナマエさんは」
「もう怖くないよってわかったら、迎えに来る。だから、ここで待っててくれる?」
こくりと、ブロンド髪が揺れた。
膝を曲げて入れば十分に入れそうだった。その上から布をかぶせれば、一見して分かりづらい。
「何かあったら声を上げて」
「うん、」
ゆっくりと蓋を閉める。喧騒や怒号に怯えながら、こんな暗闇の中で一人待たせるのだ。できるだけ早く、なんとかしてあげないと。深く息を吸いこんだ。
――大丈夫。変形弓のレバーを引いて、弓状にする。先程拾った小刀を逆手に持ち替えて、弓矢を三本、筒から引き抜いた。
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