そういえば、あの瞬間も青が眩しかった。


『アレクセイ!』
『ユーリ!!』


エステルたちを道具のように扱い、皇帝をも利用し帝都に住まう人々を危険に晒した。国のため市民のための騎士団を私物化してやってきたことは、確かに、赦すことなどできないほどの暴挙の数々ではあった。
それでも。
ユーリが剣を振り上げる。彼はそれを避けなかった。
――私は、それでも。
勝手に踏み出た足を、体を、ジュディスが手を伸ばして止めようとした。


『ナ、ナマエ……!?』


見開かれた両目が、彼らしくもなく揺れていた。


『ごめ、ん……ね、ユー、リ……』


庇うつもりなど、なかった。
こうなる以外道はなかった。余地など、なかったのに。分かっていたはずだのに。
膝から崩れた私の肩を掴んだのは、騎士団長であった人。私の唯一の肉親であった、人。
私に剣を教え義を教え、人のあるべきを教えてくれたその人は、もうずっと昔に消えてしまっていた。


『――何故、』
『ア、レク……セイ』


――父などと、もう呼びたくもなかったけれど。
力が入らなくなり、どさりと堅い石畳の上に倒れこむ。呼吸の仕方さえ忘れてしまったかのように息苦しいのに、不思議と痛くはなかった。


『ナマエ!!』


みんなが、私の名を呼ぶ。あの人は、私の肩を掴んだまま、体から溢れる血を見つめたまま、凍っていた。
――それでも。


『ごめ…んな、さい』


父上。
息を溢すような微かな声で、そう呼んでしまったのは恐らくこれが最期であると悟ったからだ。
赦されるわけがないと分かっていながら、ただただ脳裏を過っていく今までの時間が、この血で満たされていく胸腔をさらに後悔で固めていくには十分すぎた。
カランと、私の血の這う剣を落としたユーリは今にも泣きそうな顔をしていた。フレンが私の肩を抱き上げて必死に私の名前を呼ぶのがおかしくて、つい目元が緩んだ。エステルが私のそばに走り寄って、詠唱を始めようとするのを首を振って止めさせる。
もうきっと、手遅れだ。そう感じて見上げれば、私にいつだって厳しかったあの人の双眸は見る影もないほどに揺れていた。
ガラガラと、アレクセイの頭上にそびえる巨大な聖核アパティアが音を立てて崩壊を始めていた。

私は力を振り絞ってエステルとフレンを突き飛ばし――父であった人に笑いかけた。
息が切れる。呼吸が詰まる。これは大分深く斬られてしまったとどこか他人事のように感じながら、掠れる声で呟いた。


『さよ、なら』
『……ナマエ、何故』


崩壊の音が近づく。頭上の聖核が重力に従い落下する。
呆然と動かない彼に最後の仕返しとばかりに魔術を行使し吹き飛ばすと、私は近づくそれを見上げて目を閉じた。


『ナマエ!!!』


何故と、譫言のように繰り返される言葉。――何故、だっただろう。
それに答える術も、考える時間も、もうない。
そうして、私の意識はぶつりと途切れた。


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