内側から焼けていくように熱い。昼間の砂漠より、身を焦がす熱量が体の芯より渦巻いている。何かに足を絡め取られながら、ずぶずぶと沈んでいく。
ゲアモン、ソムラス、ヒスーム、ダミュロン、キャナリ――。
一人はこわい。たった一人、たった一人残された。生きろと告げられた言葉が沈む。庇われるほどの価値もない。死に際の微笑みを、見なかったことにしたい。助けられなかった仲間の声が後ろで続いている。
「ナマエ」
誰かがずっと、耳元で名前を囁いていた。怨み言が、続いている。どうして一人生き残ったのがお前なのかと、泣き声が聞こえる。
「目を覚ませ」
誰の声なのか思い出せない。
「生きているんだろう、君は」
より一層、内側で蠢く熱が温度をあげる。溶けて、なくなってしまえれば。消えて、なくなってしまえれば。髪の一本も、存在も、過去も、すべて。
「なくしたくないんだろう、ナマエ」
じわじわと指先まで炎に包まれる。あつい、あつい熱い。痛い。置いていかないでと、幼い声が泣いた。
「――ナマエ!」
冷水が項にかかる。指先が水気を感じた。
「……置いてなんて、いかないさ」
「……、ダ、…ロンさ、ん…?」
内側から焼かれる熱が肌を焦がす生々しいものに変わる。ぎゅうと背中に回された手のひらから、痛いほどの熱さが逃げていく、奪われていく。唇から、冷えた空気が肺を満たした。
「……、シ、ン…」
「目は、覚めた、かい」
「……シン、さん…?」
目の前に広がる見慣れた顔が、苦痛に歪んでいる。抱きしめられる身体の温かさとは違う生温いなにかが、腕を這っている。両手で握る、硬い感触が、炎の名残のように温かい。シンドバッドの身体が、崩れ落ちた。
「――シン!!」
頭上から冷たい水が降り注ぐ。視界の左端で燃えたぎる炎を鎮めていくそれが、両手に絡む赤いぬめりを洗い流していく。ジャーファルの声が、ぐわんぐわんと鐘のように反響していた。
立ち竦むナマエの前で、ジャーファルは呻くシンドバッドの腹部をクーフィーヤで抑えながら何度も彼の名を呼んだ。ようやく手からすり抜けた剣は先から鍔まで血にまみれ、足元に決して小さくはない血だまりを作っている。笑う彼と目が合って初めて、がくりと膝から崩れた。
「わ、わた、し」
「す、まないな、ジャー、ファル」
「言いたいことは山ほどあるんですからね、そのまま起ていてください! モルジアナ、急いで救護班を! それか八人将でも武官でも構いません、お願いします! ヤムライハは――」
目の前で泣き叫ぶように言うジャーファルが傷口を押さえても押さえても、溢れ出す血は止まらない。深緑色のクーフィーヤが、鮮やかな赤に染められていく。
魔術を、かければ。傷を塞ぐことくらいは出来るかもしれない。腕を上げることさえ頭に響く痛みでどうにかなってしまいそうだ。震える右手をシンドバッドに向ければ、素早い動作でジャーファルがその手を捕らえた。
「何をする気です」
「ち、治癒、魔法を、」
言い終わらぬうちに、左耳の異様な軽さに気づく。バキバキと不快音が響く左腕をあげ、耳に触れればそこには留め具の残骸があるばかりだった。ぎゅうと、ジャーファルが強く握る。何もするなと、告げられた言葉が茨のように突き刺さる。
――助けられない。なんて、無力で、いつも、誰かを見殺しにすることしかできない。
「……エス、テル」
あの子がいればと、唇が震える。シンドバッドの姿に右往左往していた皆が駆け寄る。血は一向に止まらない。魔導器がなければ治癒魔法も使えない。術技も使えない。ふっと意識を失った彼の名を呼ぶ声が波のように押し寄せる。
――エステル。すぐに回復をと駆けつけてくる声はない。最後に、最後に一度だけ。もう、本当に帰れなくたっていい。帰れなくなっても、いいから。
血にまみれた手でペンダントを握り締める。ユーリ、エステル、フレン、レイヴン、リタ、ジュディス、カロル、パティ、ラピード。
「お願い、」
握り締める指先にほのかな熱を感じた。
「…しな、ないで」
緑色の光の粒が重ねた指の隙間から溢れ出す。ゆっくりと、ゆっくりと見慣れた術式が足元に浮かぶ。いつも前線を戦っていたナマエたちの足元に現れるこの光が。大丈夫ですと問いかける声が、聞こえた気がした。
「傷が、」
小隊長。どれだけ考えても、やはり貴女が生きていたほうがよかったのだと。そう願う声はどれだけ経っても、消えてはくれません。
「――ナマエ!」
目が覚めたら、砂漠で眠るみんなに、会いに行きたい。
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