障害物競走は五十二位となんとも中途半端な結果に終わった。サポート科の中では上位五人の中には入れたものの、それではなんの意味もない。第二ステージへと進んだのは発目のみで、やっぱりな、という空気がE組の観客席で漂っていた。
「次騎馬戦かあ、誰かチーム戦での個性使用の考察しよーぜ」
「いーね、やろー」
隣でクラスメイトたちが輪になり始めたのを横目見る。
観客席の手すりに寄りかかりながら、ステージでチーム決めを行なっている四十二人に視線を移した。
まさかあの緑谷が一位になるとは思いもしなかった。個性的に轟か爆豪、飯田あたりが上位三名に滑り込んでくると思っていただけに、経営科も含めて盛り上がっているようだった。第二ステージの構成上緑谷は個性を見せることはせずに終わるだろう。肝心なのはチーム内のそれぞれの個性の相性と組み合わせの問題だ。単体で有能な個性であっても、無用の長物に終わることだってある。
ふと見下ろすともう既に塊ができつつあるようだった。――轟は飯田、上鳴、八百万とチームを組んだようだ。上鳴の放電さえうまく使いこなせれば敵を寄せ付けず、轟の右手で動きの制限をかける事ができる。八百万の個性は汎用性も高いし、飯田を前騎馬に持ってくれば彼のスピードを生かした動きが可能だ。防御も安定しているがとくに攻撃は最大の防御というような騎馬だった。対して一位の緑谷は麗日に常闇、そして発目だった。彼女の商魂は本当にたくましい。一位と組むなどそれはもう目立つことこの上なく、分かった上での作戦だ。とりわけ彼女のサポートアイテムは麗日との相性がいいのだろう。緑谷はあんなハイリスクな個性は使わない選択をとると考えられるが、それを補う常闇のダークシャドウをどこまでコントロールするかで攻撃力が変わってくる。どちらかというと守りに徹するような騎馬になったようだ。ポイントが大きいだけに妥当な線かもしれない。
「名字、お前もどうせその顔は脳内考察始めてんだろ」
「えっ」
「やっぱ上鳴君の騎馬いいよなァ、彼に指向性のアイテム作りたい」
授業中ぶっぱばっかりなんだよ、と名前に程近いところで輪に混ざっていた赤茶の髪をした男子に手招きされる。おずおずと混ざると、十数人で囲った輪の中心には誰かのタブレット端末が置かれていて、各騎馬を構成する生徒の名前が羅列されていた。
「名字は誰かいる?」
彼の赤茶の髪が、太陽に反射していて教室で見ていた時よりも赤みを増していた。
「…轟君?」
赤に近い髪色につられて口をついて出てしまった名前。彼の個性は、完璧だ。右手と左手でそれぞれのデメリットを補い合っている。
案の定、彼は目を見開いて言葉を探すように目を泳がせた。
「轟君かァ、彼の個性は自分で帰結してるから難しいんだよね」
「個性面でのサポートアイテムはいらないんじゃね。あるとしたら移動系アイテム? あとは指向性?」
「そもそも作っても要らないって突っぱねられそう。あのエンデヴァーの息子でしょ? 気が強そー」
「――そんなことないと思う」
舌先からこぼれ落ちてから、ハッとする。
多くの目が名前に向いていて、心臓の鼓動が跳ね上がった。
「エ、エンデヴァーだってアイテム使うし、必要だったら使うんじゃないかな!」
「…名字ってエンデヴァーのファンだったっけ」
隣の彼がアイテムにエンデヴァーの色を入れてなかったかと、後ろの座席に置いてある名前のそれを見ようと首を伸ばしたのを背中を逸らすことで視線を遮る。
あははと後頭部に手をやって、曖昧に笑ってしまった。
「えっと、うん、エンデヴァーが一番好き、かな」
「そうなんだ、私はやっぱオールマイトかなあ」
「あの人は不動でしょ!」
あの頃からずっと、名前にとってのヒーローはエンデヴァーただ一人だった。彼を好きだという気持ちを有耶無耶にさせたことはなかったけれど、いつも、オールマイトに負けてしまう。ナンバーツーだというのに、同じように彼のファンなのだと笑ってくれる人に未だ出会ったことがない。
――愛想も良くない。ファンサービスなど以ての外。威圧感で子供には泣かれる始末で、テレビには殆ど顔を出さないか喋らない。最近のCMは渋い顔で缶コーヒーを飲んでいるだけだ。
「敵顔って言われがちだよね、ヒーローなのに」
さァ上げてけ鬨の声、とプレゼントマイクの鼓舞する声が響き渡る。
第二ステージの準備が整ったようで、彼らの意識はモニターに映された。
「…エンデヴァーだって、」
腹の奥がもやつく。誰も返答を求めていないことなど分かりきっている。
オールマイトと対局に位置しているエンデヴァーの仲の悪さは有名で、十年前の対談以降は二人が揃った姿を見ることなどビルボードチャートの発表会見の時くらいなものだ。その時ですら、二人が話してる様など見たことがない。
オールマイトはいつも朗らかだ。笑っている顔が基本装備で、記者のどんな質問にもあっけらかんと答えてくれるような、絵に描いたようなヒーロー像。対して、眉間に皺を寄せて腕を組むエンデヴァー。
――ヒーローとしてのエンデヴァーは、疾くて正しくて、強い。
「いくぜ!! 残虐バトルロワイヤルカウントダウン!!」
それだけは絶対、間違いではないはずだ。
――混戦が続く騎馬戦の最中、轟の炎が上がることはやはりなかった。
嘘を吐いたことはなかった