二度目の入学式



人生で中学校の入学式を二度も経験することになろうとは思ってもみなかった。高校のそれを二度経験することならば、もしかしたら何人かはいるかもしれないが、義務教育課程では有り得るわけがない。


(……ああ、どうしてこうなった)


校門の前に飾られた『新田東中学校入学式』の看板を眺めながら深いため息を一つ。そして、今まで着たこともなかったセーラー服を眺めてまた一つ。
心の中で何度も繰り返されたその言葉が口から零れそうになってごくりと呑み込んだ。
立ち止まってても仕方ないのだから、と解ってはいるものの、どうにもならないことだってある。
ここに来て六日は経っているのに、相変わらず女々しい奴だと心中で笑った。
そんな時だった。


「……名字?」


声変わりの終わっていない少し高い声に、どきりとした。この世界で呼ばれる自分の名前に慣れなくて、まだ信じたくない部分もあって。
その声にゆっくりと振り向けば、記憶に新しい見覚えのある顔があった。


「……た、くみ」


真新しい学ランを少し窮屈そうに着ていて初々しいその少年は、つい三日前に出会った原田巧だった。彼の後ろには母親と思しき女性がいて、名前は反射的に会釈した。


「……行かないのか」
「へ?」
「だから、中に入んないのって」
「え、ああ、うん。……入んなきゃだねえ」


何だそれ、と原田は表情もなく言うと足早に名前を抜いて先に進んでいった。
巧、と後ろで原田を呼ぶ母親の声が聞こえたが、彼は聞こうともしない。
反抗期か、なんて下らないことを呟けば、昇降口の向こうで先生が「新入生は早めに行動を――」と急かすものだから、名前は苦笑いを零してから歩みをすすめた。











手元に配られたクラス分けの資料と目の前のクラスとを比較してから、開け放たれたままの教室へ足を踏み入れた。
教室の匂い。
何がどう、と明確なものはないが、三年間過ごしてきたあの教室の匂いと殆ど同じだった。
綺麗に並んだ机、何も入っていないロッカー。
黒板に貼りだされた座席表を見て、自分の席に腰を下ろす。
それらがただただ、懐かしかった。
高校とは違う、中学校の教室。
鼓動が、今までで一番高鳴った。


「――意外と近いな」
「……えっ?」


その声に振り向けば、彼――原田は名前の斜め後ろの、というか一番後ろの窓際の席に腰を下ろしていた。


「あれ、原田、なのに随分と後ろだね」
「あんたもだろ」
「私はいい具合の席順だよ」
「……あっそ」


彼は目線を下に向けて背もたれに深めに座り直すと、ポケットに手を突っ込んで詰まらなそうに息を吐いた。
可愛くない。
名前はむと膨れっ面をして、ふとまわりを見渡した。
中学は大抵小学校からそのまま上がる生徒が多く、友達同士仲がいい子が多いらしい。がやがやと騒ぐ教室内を見て、ぽっかり開いた心の隙間を見つけてしまった。


「……でも、巧が同じクラスで良かったよ」


友達いないから。にこりと笑った彼女は、どこか寂しそうで。
原田は息が詰まって、言葉が出なかった。
なんと言えばいいのか、分からなかったから。
でも、口からは言いたい感情とは別のものが零れた。


「友達とか、そんなのどうだっていいだろ」


するりと、指先がポケットの中のボールに触れた。


「……ずっと思ってた。巧って可愛くない」
「そりゃどうも」


褒めてないよ、と呟いても彼は何も言わないで、ただすっと目を閉じた。
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