13.5



第一種目を終えた生徒たちが戻ってくるたびに、席が埋まっていく。上位四十二名の通過者しか二種目めに移ることはできないため、普通科はほとんどが戻ってきていた。――C組は、心操だけがまだフィールドに残っている。


「あ、サボりの名前ちゃんじゃーん」
「あ、ばれてた?」
「当たり前でしょ! ていうか、えっ心操君の個性ってそんなすごいんだったっけ?」
「名前ちゃんのキョーダイも一位だってね! おめでとー」


いつも同じ行動をしている友達も、砂っぽい前髪を透かしながら帰ってきた。サボりやろう、なんて悪態をつきながら笑う少し口の悪い彼女は、椅子に座りながら後ろの席に腰を下ろした残りの二人を見上げる。ちょうど真後ろに座ったショートボブの彼女は、モニターにでかでかと映る引き攣った顔をする出久を指差して一位だよと笑った。
すごいねと笑い声が上がる。そういえば名前ちゃんの個性ってさ、とそんな言葉が上がった瞬間、運良くミッドナイトの声が覆いかぶさった。聞こえなかったふりをして、心操の姿を探した。


「――あ、心操君あそこにいるね、予選通過できるといいよねー」
「あ、うん、そうだね。そういえば、わたし心操君ってどんな個性なのか知らないや。澪ちゃん知ってる?」


相槌を打ちながらも話さずに後部席に座っていた友達の一人、澪は解けた髪を結び直しながら首を振る。


「名前のほうが知ってるんじゃないの? 最近仲いいじゃん」
「……そー、かな? 私も知らないけど、なんか多分、武闘派系じゃないんだとは思う」


へえと興味があるのかないのか微妙な声が上がったが、それはこれからを見ていれば分かることだ。彼女たちは疲れたなどとごちりながらも、話は来週の課題テストの話に移るあたり、普通科の生徒らしい。
二種目めの騎馬戦の準備が終わったようで、再びスクリーンには現在の所持ポイント数が映し出された。
生徒席はフィールドから程近くにあり、身を乗り出せばほとんどの生徒の顔が肉眼で目視できる。爆豪は相変わらず、凄まじい顔をしていた。出久も、大きな怪我もなさそうだ。
――爆豪の周りに、切島が集まっている。
自意識過剰でワンマンプレイばかりの彼にとって騎馬戦などというチームプレイはさぞかし避けられるのではとも思ったが、そうでもないようだった。チーム内ではできるだけ、個性は相乗効果が狙えるような組み合わせを最善に考えるのだろう。切島の個性は硬化だと言っていたので、なかなか攻守のバランスがいいチームなのかもしれない。少しだけ身を乗り出しながら見渡していれば、振り向いた芦戸が名前に気付いたようで手を振ってきた。
頑張ってと届くことはないだろうが手を振り返して声をかければ、彼女は親指を突き立ててにこやかな顔をした。


「ぶっちゃけさ、ヒーロー科ってどうなの?」
「どうって?」


隣に座る彼女は頬杖をつきながら、名前を見る。


「うちらからしたら、すっごい嫌味な感じって、思っちゃうんだよね。あの人みたいに」


そういって指をさしたのは、組み上がった騎馬の上で悪人顔をする爆豪だ。選手宣誓の時からして、彼の印象はいいものではないのだろう。それは、寧ろ大いに分かるところである。


「分かるー。でもあの人、なんだっけ、バクゴー君? だけじゃないの? ねえ名前ちゃん?」
「うん、女の子はすごい、普通に普通だよ? 言ってもまだ一回くらいしか話したことないけど」
「そうなの? なんか、ああいうのが入試一位でテレビ出て、雄英の顔! みたいなやられるとちょっと腹たつていうか、なんかうちらってほんと扱い雑っていうか」


わかる、なんていう笑い声が弾ける。客観的に見れば雄英高校の普通科というだけでもそれなりにいい筈なのだが、あまりにヒーロー科の存在が大きすぎるのだ。
ただ、


「これでヒーロー科が負けて心操君が一番とったらすごいよねー」


小さい頃からの、イメージだ。


「負ける気が、しないんだよなあ……」
「え誰が?」
「あー、あのバクゴー君?」
「なに、名前知り合いなの? 本当に周りヒーローのたまごばっかりじゃん」
「うーん……、知り合いっていうか、中学一緒だったというか……」


開始のカウントダウンを横目に、驚嘆の声が上がった。
――勝ち負けへの拘りは、昔から強かった。何においても完璧を目指すタイプの人で、だからこそ、他人のできない部分には理解に欠ける人ではあった。それでも、だからといって投げてしまう人ではないことは、知っている。
出久にだけひどく、当たりが強いだけで。どうしてなのかのきっかけを思い出すには、出逢った頃が遠すぎる。
自然と寄ってしまった眉間に察してくれたのか、彼女たちもそれきりあまり聞いてはこなくなった。そういえば、無駄に顔だけは整っているせいで、そういったことの窓口にされることもあったなんてくだらないことまで頭をよぎる。――何にせよ、もう無関係の人なのだ。爆豪は、恐らく負けない。負けないのなら、その先は取り上げられることも増えるようなヒーローになるのだろう。その一歩がこの体育祭だということくらいは分かっている。それは、出久も同じことだ。ここから、緑谷出久はもっと変わっていく。
かさついた唇を、指でなぞった。

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