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十五分間だ。この十五分、誰からも奪われずに圧倒的な一位を勝ち取る。
そう言って息まいた爆豪は、切島と芦戸、瀬呂のそれぞれの個性を再確認したうえでポジションを割り振った。開始までまだあと数分が残る状況の中、眼光鋭く周囲の騎馬を見渡している爆豪は意外と冷静だ。こういった頭に血が上るような状況の方が、USJの時もそうだが冷静になれるのかもしれない。
切島は第一種目で大分温まった体をほぐしつつ、爆豪を横目で見ていれば、彼が不意に芦戸のほうを向いた。
彼女はと言えば観客席を見上げて手を振っている。その視線の先には、名前がいた。


「名前ちゃんじゃーん! やっほー!」


頑張って、と喧騒に紛れて彼女の声が聞こえた気がする。親指を立てた芦戸に笑う名前は、そういえば先程の種目には参加していたのだろうか。怪我をしていなければいいと思うのは、存外にもハードな内容だったからだ。
視界には、まだ芦戸を見る爆豪が映っている。――もしかしたら、芦戸のその奥の彼女を、気にしていたのかもしれない。そんなことを思ってしまうほどには、二人の間にはやはり何かがあったのだろうと、USJ事件の後のあの日以来どちらかとすれ違うたびに頭には過っていた。かかわるだけ野暮なのかもしれないが。


「いくぜ!! 残虐バトルロワイヤル!! カウントダウン!!」


プレゼントマイクの声がスタートまでを刻む。
手を組み合わせて作った土台の上に、軽々と爆豪が跨った。


*     *     *


残り半分となった時点で、爆豪からハチマキが奪われた。そして一千万ポイントをぶら下げる出久の前に、赤と白の男子が騎馬を作るチームが立ちはだかる。第一種目から見るに爆豪と彼――確か、名前は轟だったと思う――がヒーロー科のツートップなのだろう。


「このままA組総崩れな展開?」
「どーだろ、なんかA組とB組は仲悪いんだね」


騎馬戦も後半に差し掛かり、流れが動き始めたことで観客席も熱を増してきた。
彼女たちも手すりに寄りかかりながら目下の彼らを観戦しつつ、左端の子からスティックタイプのチョコレート菓子が渡ってきた。


「心操君ポイントゼロになっちゃってるじゃん! まじか。あ、ほい名前」
「ありがとー。でもまだ個性使ってないみたいだし、これから逆転あるよきっと」


ぽり、と小気味いい音を立てて折れた菓子を口の中に放り込む。
心操もいつの間にかハチマキを奪われたようだが、フィールド上の彼からは焦っているような動きは見られない。土台にはA組で見たことのある二人がいた。機動力がないから上なのか、それとも攻撃に転じやすい個性なのか。今のところ判然としていないので、個性によっては一気に逆転もありうるはずだ。
騎馬戦であれば出久も不用意に全力を出せる状況にもならないと思うので、一回目よりは気楽に見ていられた。母は、恐らくまだどぎまぎしているのだろうが。
――心のどこかで、ここで負ければ、本選には残らないのだと。そうすれば、大怪我はしないのだと、そう考えている自分がいる。見届けるだなんて言っておきながら、まだ心の準備はできていないのだ。
残り時間も数分となったところで、轟チームが出久を追い詰め始めた。氷を使う能力で退路を遮り、じりじりと迫っている。
残り一分。プレゼントマイクの掛け声が上がる。
刹那、轟チームが消えた。砂ぼこりだけが名残で舞い上がり、気づけば、出久の額にはなにもなかった。


「速ッ速ー! ここで逆転だあ!! 轟が一千万!! そして緑谷、急転直下のゼロポイント!!」


まじか、なんて驚愕や感嘆や落胆の声が方々から飛び交った。残り三十秒もあるかどうかだ。
――思っては、いけないのだろう。思わず組んだ指は、何を願っていたのか分からない。呼吸が詰まる。


「…がんばれ」


喉を通ったのは、紛れもなく、名前自身の声だった。


「そろそろ時間だ、カウントいくぜええ!!」


カウントダウンの声が響く。スクリーンにも映し出されるのは、轟と出久の最後の攻防だ。
出久の右手が伸ばされる。黒い影が、轟の背後に回っていくのが見えた。


「Time up!! 早速上位四チーム見てみようか!!」


疲れた顔の様子で全員が動きを止めた。出久はというと、土台の前衛を担っていた彼――常闇の最後の一手が見えていなかったようで、拳を握って悔しさをにじませている。彼が加えているポイントは、轟の持ちポイントだったはずなのですべり込めるはずだ。
スクリーンには最後のポイント獲得数が表示され、プレゼントマイクによる結果発表が続いた。一千万を獲得した轟チームは堂々の一位を掲げ、次いで爆豪チーム、心操チーム、そして、出久のチームが最終種目に残ることとなった。
――心操のチームは、最後の最後までポイントの移動はなかったはずだ。この白熱した状況で心操がハチマキを奪えば、注目される。だというのに、静かに、彼は三位の座に鎮座していた。


「心操くんの、誰か見た?」
「全然。気づいたら三位! まあでも本選行くってすごいわーなんか差し入れ持ってってあげよ」


誰も、彼のその瞬間を見ていない。いまだ、彼の個性は謎のまま、昼休憩を挟んだあと最終種目となる。
これで、出久と心操がどこかであたるかもしれない可能性は一気にあがってしまった。そうでなければいいなとは、最後まで思っていることだった。

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