冷えた掌で陽に触れて

「彼方くんならよく見かけるよ!人懐っこくて、いっぱい可愛がられてるよ」

「…うん、そっか」

「町のおじいちゃんおばあちゃんたちも、孫が増えた気分なんだろうね。彼方くん、彼方くんって、どっちが構ってもらってるんだかって感じ!」

彼方なら心配はないと思いながらも、万が一もしも、ちょっと乱暴な人やポケモンに出会っていたら。そう思うのも少なからず本当だったから、コトネちゃんの言葉に私はほんとうに胸を撫で下ろした。コトネちゃんのマリルに会ったことはないけれど、目の前でこうしてフエン煎餅を幸せそうにかじる女の子のポケモンだ。悪い子なはずはないだろう。

今日も例の仲良し二人組、コトネちゃんとヒビキくんは私の部屋へ遊びに来ていた。地図やポケモンの本やバトルビデオなんかで埋め尽くされたこの部屋は、まさに宝の山。おばあちゃんが時々お菓子も運んでくれるし、遊び疲れた二人の休憩場所にはちょうど良いのだ。オレンジの夕陽が射し込む部屋で、今日はヒビキくんのリクエストでバトルビデオ鑑賞会。レッドというトレーナーのポケモンリーグ決勝戦だ。今や姿をどこかへ眩ませ、伝説と化している彼のバトルは、ほんとうに鮮やか。バトルが始まる前はぼんやりと無口で無表情だったのに、バトルになればそんなのはどこかへ消え失せ、大声で指示を出し、これ以上なく楽しそうにバトルをしていた。念入りに計算された戦術ではないけれど、突発的なアイデアで相手を翻弄する。ちょうど今は、サイドンにピカチュウが挑んでいるところだった。ピカチュウがかげぶんしんでサイドンの足元を駆け回り転ばせてダメージを与えるなんて、誰が想像するだろう。それを生き生きとやってみせるものだから、彼が世の少年少女の羨望の的になるのも十分納得できる。

ちなみにヒビキくんも、その一人だ。お世辞にも大画面とは言えない液晶を食い入るように見つめ、彼と彼のポケモンの一挙一動を残さず目に焼き付けようとしている。コトネちゃんが、ヒビキくんのお菓子全部食べちゃうよ?と言っても、曖昧な返事。バトルがようやく終わってお菓子に目を写したときに、僕のはどこ?と言う始末だ。しょげる姿が可哀想だったから、私の分をあげた途端ぱあっと表情が輝いて、ちょっと微笑ましかった。

「それにしてもヒビキはほんと好きだよね、レッドのこと」

「だってかっこいいじゃんか!ああ、僕も早くポケモンと旅してチャンピオンになりたい、」

「それから『レッドみたいになりたい』、って言うんでしょ?」

「……。なんで分かるんだよコトネちゃん」

幼馴染っていいなあ。ちょっとおませなコトネちゃんと夢に溢れたヒビキくん、長い時間を一緒に育ってきたせいで、お互いのことを良く知ってる。私のことを考えてみると、幼馴染と呼べるのは彼方なのかもしれない。…会いたいなあ、と思うと、また胸が苦しくなった。

「そういえば、レッドといえばさ」

「え、何!?」

レッド、の言葉に思わず立ち上がるヒビキくんをまあまあと諌め、コトネちゃんはちょっと得意げに語り出した。

「ロケット団って、ちょっと前にいたでしょ。人のポケモン盗む悪い奴ら」

「でも、確か今は解散したんだよね…?すごく強い少年が来て、トップの人をポケモンバトルで倒しちゃったとか、一時期噂になってたよね」

「まさかそれがレッドなの!?」

「…あくまでも噂だけどね。でもあの時で大人に歯向かえる子供といったら、何と言ってもレッドでしょ」

「うわあ、すげえ…!やっぱりかっこいいなあ、レッド!」

またきらきらと瞳を輝かせているヒビキくんは、どことなくバトルをしているときのレッドと似ていて、なんだか面白かった。その隣に座るコトネちゃんは相変わらずの澄まし顔だけど、…そういえば、コトネちゃんの夢とかは聞いたことがなかったっけ。でも意外と秘密主義だったり、とか?いかりまんじゅうを頬張るコトネちゃんをじっと見つめながら考えていると、ぱっと目が合ってしまう。どうしたの、ヒナリちゃん?と聞かれれば、答えざるを得なくて。

「コトネちゃんは、やっぱり将来旅に出たり、何かしたいことがあるの?」

「……。うーん、あたしは…」

わかんないや。そう言って眉を下げたコトネちゃんに上手く顔を合わせられなくて、私もまたいかりまんじゅうへと手を伸ばした。
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