背中を煽るはるかぜ

結局、またヨシノシティのポケモンセンターに帰ってくることになった。まず第一に彼方を回復してもらうためだが、もう一つ、目の前にいる謎の二人組にお礼をするためだ。

彼方の傷は幸い大したことはないらしく、ほんのすぐに私の手元に帰ってきた。消毒してもらったのだろうか、膝の上の彼方から少し薬品の匂いがする。体力はすっかり回復しているので、ポケセンのロビーで私とともに二人を見つめている。だけど彼方の視線には感謝の色より、疑惑の色のほうが強いように感じるのは気のせいだろうか。

フレンドリィショップで売っていた、ヨシノのお土産であるという饅頭を差し出して、私は頭を下げる。

「あの、本当にありがとう、ございました」

「礼には及ばない」

「わーいもっと褒めてー」

「…煌輝、慎め」

改めて見ると不思議な人達だった。煌輝さんと、瑞芭さん。話を聞けば、なんと私と同い年だと言う。煌輝さんはともかく、瑞芭さんも同じだと言うから驚いた。
藤色の緩やかな長い髪と、同じ色の怜悧な瞳を持つ彼女は随分と大人びて見えたから。一方、煌輝さんはちくちくしたこがね色の短髪におっとりと柔らかい瞳ーー珍しいことにその色は鈍い朱だったーー年相応の雰囲気を纏っていた。二人ともそれぞれ水色と黄色のジャージを着ているが、兄弟か何かなのだろうか。

「へえー、ヒナリちゃんって言うんだー。一人旅?」

「はい、でも彼方が一緒です」

「そうなのか。だがさっきのように、そのマグマラシが苦手なタイプが出てきたら危ないな…」

『…僕、大抵の相手は倒せるもん』

「あーそういえばこの辺ニョロモとか住んでるんだってー、さっき小耳に挟んだんだー。やっぱり水は炎の天敵だよねー。あ、このお饅頭おいしー」

不服げな彼方を見てか、煌輝さんはわざとらしくそう言った。彼方が『う、』と押し黙ると彼は満足げに口角を上げる。不憫な人かと思っていたけど案外苛めっ子気質もあるのかもしれない。

「まあでも、かく言う私達も草タイプが出てきたら打つ手がなくなってしまうのだがな。水タイプのマリルは弱点を突かれるし、電気タイプのピカチュウの攻撃は然程効かない」

「そうそう!そこで提案なんだけどね、よかったら一緒に旅しないかな?なんて」

一瞬、煌輝さんが何を言ったのか分からなかった。どうやったらその話に跳ぶんだ。

彼方と一緒に目をぱちくりとしていると、煌輝さんに「わー、面白い顔ー」と笑われた。



一緒に旅しませんか。そう何回も言われる台詞ではないと思うのだけど。今日は一体何なんだろう。

最初の…キリノさんに言われたその台詞は何よりも怖かった。そして今二人から掛けられた台詞は、同じ内容でも全く感じるものが違う。疑問の念のほうが大きい。

「…なんでですか?」

「何故…と言われると、さっき述べたような理由だが」

「てか俺たちね、ちょっと人に会いに行くためにちょっとした旅に行ってるんだー。そいつと32番道路…繋がりの洞窟の前のポケモンセンターで待ち合わせしてるから、そこまでの同行になっちゃうんだけどね」

「…彼方、どう?」

悪い人達ではなさそうだし、別にデメリットはないと思う。ただ、やはり自由気ままな旅とはいかなくなるかもしれない。それだけが気がかりだった。

彼方に問いかけると、怪訝な表情のままゆっくりと口を開いた。

『…できたら僕らだけがいいけど、僕だけじゃさっきみたいに対処できない時があるのも事実だし』

もしかして、さっきのバトルで勝てなかったのを気にしているのだろうか。そう思って、大丈夫だよという思いを込めて彼方の背中を撫でた。少し強張っていた彼方の身体が緩んでいく。

「どうだろうか、急な話で悪いとは思うが…」

口の前で両手を組んで、こてんと小首を傾げる瑞芭さん。藤色の髪がゆらめいた。

この人達なら、安心していられる。それに、31番道路に着く頃には私も彼方も今よりは強くなっているだろうし。

「…不束者ですが、よろしくおねがいします」

「まじで!やったー、瑞芭と違って愛想のある女の子と旅ができるー!」

「ありがとう。私達も助かる。…本当に」

はしゃぐ煌輝さんと少し表情を和らげた瑞芭さん。私もぎこちなく微笑みかえす。膝の上の彼方はやっぱり怪訝なままだけど。

なぜ彼方はこんなにも二人を警戒するんだろうか。普段の彼方なら、初対面の人でも人懐こく擦り寄っていくのに。また二人を眺めても、まだよく分からないところはあるけれど悪い人のようには思えない。
そこで、そのよく分からないことの一つである質問をまずぶつけてみた。

「でもなんでそんな、私達に拘るんですか?ここだったら他にもヒノアラシとか連れてるトレーナー、いそうじゃないですか」

瑞芭さんと煌輝さんは顔を見合わせて目をぱちくりとさせる。そしてこちらを向くと微笑んで言った。

「うーん、なんかほっとくわけにはいかないから?なんてね」
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