背中を煽るはるかぜ

ヒナリとあの瑞芭サマとかいう奴はフレンドリィショップに行ってしまった。僕も普段ならついていくところだけど、今日だけは違う。

人である煌輝サマ?を睨みつけようとしても、どうしてもマグマラシであるこの姿ではただ見上げるだけになってしまう。人のかたちになりたかったけど、タイミングを見失ってしまっていた。

「…ねえ、彼方くんだっけ?ちょっと話そうよー。おいで」

言われた通り奴のあとを付けて行くと、そこはポケモンセンターの裏の、人も滅多に来ないような場所。そして、「さあ、どうぞ」と奴は微笑んだ。気に入らないけど、都合がいいのは事実だった。僕は人のかたちをとると、また煌輝サマを睨みつける。身長差は縮まったけど、それでも僕のほうがまだ小さい。

「なんで、僕らに関わるの…?」

「えー、ほっとけないからって言ったじゃんかー」

「そうじゃない、」

「ほんとにそうなんだって。僕らだって、本当の理由は知らないよ。だけどまあ、こんな境遇であるからにはねー」

しょうがないじゃんか、とバツが悪そうに奴は笑っている。

タイプ相性だとか、そんなのは嘘に決まっている。だってこの道中にはたくさんのタイプのポケモンが現れるんだ。ヒナリだって、野生のポケモンが捕まえられないわけじゃない。ただ、出来たら無理やり捕まえるより仲良くできそうな子と一緒にいれたほうがいいな、と思っているだけで。

僕はなんだっていい、ヒナリと一緒に、遥か遠くに行けるなら。可能ならそりゃあふたりきりは嬉しいけど、やっぱり仲間だって大事な旅の要素の一つだ。だけど、このふたりは。

「ヒナリに変なことしないでね」

「もちろん。俺ちゃらんぽらんだけどそんな軽い奴って訳じゃないよー?」

黄色いジャージにポケットを突っ込んだままのほほんと笑った。こいつが真顔になる時ってあるんだろうか。

「にしても、ほんと彼方くんヒナリちゃんのこと好きだよねー」

「嫌いになるはずがないよ」

「ふーん。ならあんまり心配かけるのはよろしくないんじゃない?君の態度露骨すぎてヒナリちゃん不安そうだったじゃん」

「…うん」

「じゃあ俺のこと煌輝サマとか呼んじゃだめね!おっけー?」

『えーまじですか煌輝さま!俺も呼び捨てでいいんすかー!』

「うん、ぴーくんはなんか腹立つからやーだー」

急にボールから飛び出してきたピカチュウーーもとい、ぴーくんは煌輝サ…煌輝のげんこつを喰らってしょげている。

『まあ、少しの間だけど仲良くしようよ、…えっと、彼方くん』

彼はそう言って小さな手を伸ばしてきた。僕も屈んで、その黄色い手のひらを握る。煌輝はともかく、ぴーくんなら仲良くできそうな気もしてきた。

「よろしくね、ぴーくん!」

「えー、ぴーくんずるいー。俺も握手!友好の握手!」

「うん、嫌だ」

「ひどいよ彼方くん!」


*****

フレンドリィショップに瑞芭さんと買い物から帰ってくると、彼方と煌輝さん、それからぴーくんはすっかり仲良くなった…by煌輝さん。若干煌輝さんの扱いがぞんざいな気もしたけど彼の性格からしたら仕方が無いだろう。それから、二人には呼び捨てにしてほしいと言われたが、さすがにそこまで社交的でない私は瑞芭ちゃん、煌輝くんと呼ぶので精一杯だった。彼方くらいにフレンドリーだったら可能だったかもしれないけど。

そして全員揃ったところでようやくヨシノシティを出発。30番道路は平坦な道に草むらが点在するような、なんというかとても初心者向けの道路だ。そのせいか短パン小僧の姿がちらほらと勝負のチャンスを伺っているのが見える。

『ヒナリ、バトルする?』

そう言って私を見上げる彼方の瞳がきらきらとしている。その期待に答えて頷くと、彼方は嬉しそうに飛び跳ねた。

ちょうどいいことに、すぐ側にいた少年と目があったので、暗黙の了解でバトルが始まる。

「じゃあ僕らはのんびりと観戦させてもらうよー」

「そうだな」

そんな二人の台詞をよそに、相手はコラッタを繰り出した。

何せヒノアラシの時にコラッタの進化系であるラッタを倒したことのある彼方だ。楽勝だろう。その余裕が隙を生んでいた。

「コラッタ、あなをほるだ!」

『わかったぜ!』

コラッタは少年の指示に合わせ、みるみるうちにその姿を地中に隠した。彼方が不安そうに私を見るが、上手い対処法がまだ思いついていない。
どうしよう、と思っている間に少年が「今だ!」と合図を出し、彼方は地中から出てきたコラッタの体当たりを受けてしまった。

「彼方!」

炎タイプである彼方に地面技のあなをほるは効果抜群。いくらレベル差があるとはいえ堪えるようだ。

その反応に味を占めた少年は、にやりとして叫ぶ。

「コラッタ、もう一度あなをほるだ!」

さっきと同じように姿を消し、彼方がおろおろとする。これではダメージを食らう一方だ。何か策は…?そう慌てていると、外野から呟きが聞こえた。

「…相手に、出る位置を悟れなくさせたらいい」

「そのためには一体どうしたらいいものかねー」

彼方も私も、はっとした。多分同じことを思ったのだろう。地中からの位置を悟れなくする…?空を飛ぶ、とか。だけど彼方にそれは不可能だ。なら、もうひとつの手段は。

「彼方、 かえんぐるま!」

動き回る。それも予測できないほど速く。今度はコラッタと少年が右往左往する番だった。困惑しながら地表に現れてきたコラッタに、そのまま炎を纏った彼方が体当たりをかます。コラッタはその勢いに飛ばされ地面に打ち付けられ、そのまま気絶してしまった。

かくして、私はキリノさんのを除いたらジョウトで初のトレーナー戦を終えた訳だが。

「なんか納得いかない…」

「…うん、僕も」

不服げな私達を煌輝くんと瑞芭ちゃんが不思議そうに尋ねる。

「なんでさー。勝ったのに」

「だって、二人のアドバイスがなかったら勝てなかったんですよ?」

「僕達の力じゃ勝てなかった、て思うとなんか悔しい…」

「そんなことはない。勝ったのは確かに君達の力だ」

人の形をとった彼方と一緒に項垂れていると、またしばらく向こうに誰かトレーナーらしき人が見えた。

「またトレーナーか。なら今度は私が戦いを挑むとしよう」

「おおー!頑張れ瑞芭〜」

瑞芭ちゃんが藤色の髪を靡かせながらトレーナー…短パン小僧の前に立つ。その立ち姿がなんというか、あまりにも堂々と威厳たっぷりだったからか、少年は思わず身震いしてしまっていた。

奇妙な空気のまま二人はボールからポケモンを繰り出す。相手が繰り出したのはポッポ、瑞芭ちゃんはあのお転婆なマリルちゃん。煌輝くんの「じゃあはいはい、バトル開始ー」という合図で、バトルが始まる。

「ポッポ、たいあたり…って、え?」

その時、何が起こったのか理解不能だった。ポッポは倒れている。ついさっきまでやる気満々とばかりに羽をはためかせていたのに。驚愕してしまった少年はその場で硬直してしまっていた。

瑞芭ちゃんはマリルちゃんを呼び寄せるとボールに戻す。そして踵を返して私達の元へやってきた。

「わあーさすが瑞芭。大人気ないんじゃない?」

「容赦などしたらバトルではない」

なんてことないように話す二人にいまいちついていけなくて、どういうこと?と隣の彼方に尋ねる。彼方はいつになく静かな口調で私に教えてくれた。

「バトルが始まった瞬間にね、瑞芭の口元が動いたのは見てた?」

「う、ううん。わかんなかった」

「あの時に、多分人間には聞こえない…もしかしたら、ポケモンでも聞こえないくらいちっちゃい声で、アクアジェットって言ってた。多分そのアクアジェット一撃で倒したみたい」

アクアジェットは、確か水を纏って瞬時に相手の元に突っ込む先制技。そのかわり威力は控えめだったはずだ。その一撃で倒してしまうというのは、つまりどういうことなのか。

「どうしたの彼方くんもヒナリちゃんも。そんな難しそうな顔しちゃって」

先に歩んでいた二人が不意に振り返る。
私へのアドバイスといい、さっきの指示といい、マリルちゃんの力量といい。彼らははたして普通のトレーナーと言えるのだろうか。何か、破綻した何かを持っているような、そんな気がした。
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