背中を煽るはるかぜ

翌日。私はキキョウジムのバトルフィールドに立っていた。特徴としては…高い!リフトを上がった先にあるフィールドの奥に雲が流れるのが見えて、つい心踊ってしまうけれど、それで負けたらシャレにならない。隣の意気揚々とした彼方に失礼だ。

ここのジムリーダー、ハヤトさんにお願いしますと頭を下げると、同じように彼も礼をした。そして青い袴からボールを取り出し、出てきたのはピジョン。空に羽を羽ばたかせ、こちらをきりりと睨み付けるピジョンは威圧感満天だが、負けるわけにはいかない。

「彼方、お願い!」

『えへへ、さっさと勝っちゃおうね!』

炎を勢い良く燃やす彼方もまた気合十分。審判の合図で試合は始まった。

「彼方、かえんぐるま!」

「すなかけだ!」

ぐるりと助走をつけて空中のピジョンに攻撃を仕掛ける。が、ピジョン自身も動き回る上にすなかけで視界を阻まれたら、なかなか当たるものではない。

彼方もちょっとムキになって攻撃を仕掛け続けるが、だんだんと疲労が出てきたのか回転速度が落ちてきたようだ。だがそれはピジョンも同じで、少し動きが鈍っているように見える。

「彼方、今ならいけるよ!」

『! わかった!』

再びのかえんぐるまは砂をも吹き飛ばし、ピジョンに直撃する。よし、まずは攻撃成功!フィールドの端で観戦している瑞芭ちゃんと煌輝くんもそうだというように大きく頷いたのが目に入った。

「よく攻撃を当てたね。でもまだまだこれから!ようやく風に乗ってきたところさ!ーーピジョン、かぜおこし!」

きた!この時を待っていたのだ。

「彼方、あなをほる!」

31番道路のバトルで苦しめられたあなをほる。瑞芭ちゃんが買ってきてくれたお土産だ。昨日技マシンを使って習得したばかりだけど、持ち前の力技で彼方はやってのけた。フィールドの土を掘り、かぜおこしを食らう前に何とか隠れ切ることに成功する。

「意外な技を使うね。驚いた」

ハヤトさんも目をぱちくりとさせている。ピジョンは対照的に全く動じていない…というかは、指示を冷静に待っているようだ。

「でも、これは僕にとってもチャンスだ!ピジョン、今のうちにはねやすめを」

『了解です、ハヤト』

ピジョンは長く飛び続けてきた疲れとかえんぐるまのダメージを回復するように、地に足をつけ羽を閉じる。そう、これが私にとっても最大のチャンス!

「来て、彼方!」

突如地が蠢いたかと思うと、ピジョンは火炎に包まれていた。地中から現れた彼方がピジョンにタックルを決めたからだ。

「ピジョン!」

「彼方、そのままもう一回かえんぐるま!」

再び火炎が衝突する。土煙が舞って、皆がごほごほと咳をするが、それがようやく晴れてきた時、ーーピジョンは地に倒れていた。

「挑戦者、勝利!」

…勝った?

審判の声が響くや否や、私のもとへ駆けてきた彼方がそのまま飛びついてきた。

『ヒナリー!』

「わ、あ!」

受け止めきれなくて後ろに転んじゃったけれど、そんなの今はどうでもよかった。砂でごわごわの毛並みをいつもよりちょっと乱暴に撫でる。眩しい笑顔の彼方を見て、ようやく勝利の実感が湧いてきて、つい表情が綻ぶ。そうか、私は勝ったんだ!初めてのジム戦を勝利で飾れたなんて!

「悔しいけど…地面技を想定していなかった、鳥ポケモン使いとして僕は失格だよ。これを持っていってくれ」

俯きがちだったけど、最後にはへにゃりと微笑みかけてくれた。そして渡してくれたのはウイングバッチ。ハヤトさんのイメージカラーなのか、鮮やかな水色だ。それをジョーイさんから貰ったバッチケースにぱちんとはめ込む。ようやく刻まれた強さの証だ。

「彼方、ありがとうっ!」

『うん、頑張ったよ、僕もヒナリも!』

いつの間にか側に来ていた瑞芭ちゃんも、よくやったとばかりに私の頭にぽんと手を置いた。なんだか照れ臭さと喜びが入り混じって、私はひたすら彼方を抱きしめていた。
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