背中を煽るはるかぜ

まりりん、というのは煌輝くんがマリルちゃんにつけたあだ名らしい。あくまでもあだ名らしくて、名前自体は煌輝くんも瑞芭ちゃんもつけない派らしい。だからぴーくん、っていうのもあだ名であって名前ではない…らしい。でも当の二匹はあまりそれが気に入っていないようだ。ぴーくんはもう諦めたけど、マリルちゃんはどうしても許せないらしい。何だかよく分からないから、とりあえずぴーくんとマリルちゃんでいいや。

とはいっても、これからお別れなんだけれども。ポケセンで一泊して翌日、これからまた三人で旅に出るという煌輝くん達と、繋がりの洞窟を越えてヒワダタウンへと向かう私達は逆方向だ。傷薬なんかを補充した後、私は三人を見送りに行った。

煌輝くんはいつも通りへらへら、瑞芭ちゃんは珍しくちょっとだけ口元を緩ませていた。悠焔さんはむっつり仏頂面。

「じゃあ、ばいばいだねー。ううー寂しいよーヒナリちゃん!」

「ま、まあ、またいつか会えますよ!」

「ジョウトは狭いからな。またどこかで会えるだろう」

「ふん、こんな女と出会ったところで何の得もないだろう?」

「あのねー悠焔。瑞芭とヒナリちゃん比べてどっちが癒される?…ヒナリちゃんでしょ!ほら超お得!」

「…否定はしないが腹が立つな」

「…あの」

またわいわいと言い合いを始めた三人を止めたのは彼方だった。瞳の赤が煌々と輝いていて、いざ三人を射抜かんとしているみたいだ。だけど三人はそんなのを物ともせず、平然と突っ立っている。

「あの。…ありがとう、ござい、ました」

彼方はぺこりと頭を下げる。それは、今まで三人に激しい警戒心を見せていた彼方からは想像できない行為だった。驚いているのは私だけでなく、煌輝くん達も目をぱちくりとさせている。

「疑惑というか、なんというか…怪しいところはたくさんあるけど、でもやっぱり強くって、もしヨシノで煌輝達がいなかったら、僕達今頃どうなってるのかわからない訳だし…。あの、悠焔、サマ」

彼方の言うことは私の伝えたいことの全てだった。怪しいところ…はあんまりわかんなかったけど、ヨシノでのことは、本当にいくら感謝しても感謝しきれないほどだ。

彼方は悠焔さんに視線を向けた。その視線は出会った時と同じ力強いものだったけど、その意味合いは少し違うような気がする。

「またどっかで会えたら、僕の炎を見てくれない…かな。悠焔さま」

「…ふん。私は貴様を気に入っている。良いだろう」

「! ありがとう…!」

彼方の表情がぱぁ、と輝く。煌輝くん達と一緒に旅をするようになってからなかなか見れなかった彼方のこの笑顔だ。なんだか私までつい笑顔になってしまう。悠焔さんも予想以上の喜びように少し顔を赤らめていた。

「そ、その代わり大して成長してなかったら許さないからな!」

「大丈夫だよ、絶対強くなるよ!」

「わあ悠焔、かわいい弟が出来たみたいだねー!」

「なっ、誰がこんな奴を弟に…!」

「じゃあ悠焔兄ちゃん…なんちゃって、えへへ」

「照れるな貴様!」

「…盛り上がってるところ悪いが、そろそろ行くぞ」

あれだけいがみ合ってた煌輝くんともやっと普通に喋れるようになったのに、ちょっと残念だ。まあだけど仕方ない。瑞芭ちゃんの一言で、三人は道をゆっくり歩き始めた。

「じゃあねーヒナリちゃん彼方くん!今度ヒナリちゃんデートしよーねー!」

「…彼方に殺されるぞ煌輝」

「おい、貴様は弟でも何でもないからな!勘違いするなよ!」

まだわいわいと叫んでいたけれど、遠くなるうちに声はぼやけて、段々と聞こえなくなっていく。彼方と二人手を振り続けて、三人の姿が完全に見えなくなると、自然と互いに目が合った。

「彼方、一緒に旅したい子って、確か」

「うん。繋がりの洞窟に住んでるはずだよ!」

彼方は私の手をとって愛しそうにぎゅっと両手で包んだ。

「楽しみだね、その子に会えるの!」

「じゃあ早く行こうよヒナリ!」

彼方は私の手を掴んだまま走り出した。私も負けじと走って、繋がりの洞窟を目指す。思えば洞窟に入るのなんて初めてだ。不安もあるけど、今は期待のほうが優っていた。さあ、繋がりの洞窟へ。

***

「あーあ、あっという間だったなー!最後の最後に彼方くんが心開いてくれてよかったよ、ほんと!」

「ああ…これに関しては悠焔のお手柄だな」

「なんかそう言われると悔しいよなー」

「というか、あんな中途半端な場所で別れていいのか?洞窟で苦労したりしないのか」

「私もそれは思ったが、上が大丈夫と言っているんだから、従うしかなくてな」

「てか悠焔何気に心配してやんのー!あんだけつんけんしてたのにー」

「心配など…っ!何故この私がせねばならんのだ!」

「…五月蝿い」

三人の進む先には、茜色の街があった。
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