想いの箱の鍵探し

繋がりの洞窟。彼方が炎タイプで本当によかった。彼方の頭とお尻の炎を頼りにすれば、暗い洞窟だってへっちゃらだ。
でもそれは道筋以外のものも示してくれた。未使用のスーパーボール、空の傷薬…。暗い道だから落し物なのかな。でも空の傷薬って…つまりそれは、使ったその場で捨ててしまった、とか?見つけてしまった以上、放っておくことはできなくて、それらを見つける度一つ一つ拾って行くことにした。

洞窟の中は意外にもトレーナーと出会うことが多かった。山男さん、火吹き野郎さん、それから怪獣マニアのお兄さん。なぜこんな洞窟にいるのだろうと思って、私は一度尋ねてみることにした。

「あの、ここに何かあるんですか?意外と人、多いなって思って…」

「ん?…ああ。これはあくまでも噂なんだけど…金曜日になると、洞窟の奥から何かポケモンの声が聞こえてくるらしいのさ」

怪獣マニアのお兄さんは内緒話でもするように私に教えてくれた。ポケギアを取り出すと、今日は確かに金曜日だ。

「そう、今日は金曜日!だから他のトレーナー達もたくさんいるみたい。だけど僕は負けられないよ、絶対僕こそが見つけ出してみせるんだ!」

途端に大声になるから、ズバット達が驚いてどこかへ飛び立つ。そんなのを見てもははは、と笑うだけのお兄さんに、なんとなく嫌気がさす。ここはポケモン達の住処なのに、驚かすようなことなんて。

それは彼方も同じだったみたいで、早く行こうとばかりに私のスニーカーをくいと咥えて引っ張っている。私は彼に礼を言うと、そそくさと彼方の引っ張るがままに着いていった。

「これじゃあ、その友達が人間嫌いになるのもわかるよ。さっきの人も、落し物も嫌だもん」

人気もなくなった辺りに入って、そう言うと、思わずため息が出てしまった。今から会うというその子と上手くやれる自信がどんどん減衰していく。長い間あの嫌悪感を抱えた子に、私が何を出来るというんだろう。

暗くなってしまった私を励ますように、不意に彼方が場違いなほど眩く微笑む。

『大丈夫だよヒナリ!えっと…確か前はこの辺りで会ったんだけど』

キョロキョロと見回した先にたまたま居たズバットに彼方は声を掛けた。

『ねえねえ、ちょっと聞いてもいい?』

『何だよ、人間の駒の言うことなんて聞くかよ』

『僕昔この池に落ちて大騒ぎしたマグマラシなんだけど…覚えてない?』

『…ああ!お前結局その女の子と旅に出れたのか!』

『そうなんだ!それでね、』

ズバットくんはばさばさと彼方の周りを飛び回り、再会を喜んでいるようだった。というか、彼方がここに落ちた?そんなことがあったなんて。こんな池で落ちたら炎タイプの彼方にとっては生死に関わる。一体どうやって助かったんだろう。

それにしても彼方は本当に至る所で私の話をしていたみたいだ。…やはり気恥ずかしい。

『あの時の…に、会いたいんだ』

『…その女の子連れて、か?』

『お願い、無理を言ってるのは分かるんだけど…』

『いくらお前でもそれは無理だ。あいつは基本俺らには気前良い兄貴分だが、人間には…』

『大丈夫、ヒナリは、ヒナリならきっと』

そう彼方が頼みこんでいた時。
不意に、池から水飛沫が上がる。その煌きに思わず目を瞑ってしまう。その間に水中から何かが現れたようだ。

『お前はいい、俺が何とかするよ』

ポケモンの声だ。穏やかにたしなめるテノールの後、ズバットの羽ばたきが遠のいて行く。ようやく目を開けると、そこに居たのは。

『わあ、久しぶり!』

『…帰れ。早く帰れ』

なめらかな曲線を持った長い首と対照的にごつごつとした甲羅、それから水に濡れて、艶やかな青色。のりものポケモン、ラプラスだった。本では味わえない大きさに圧倒される前にそう突き放されて、私はびくりと身体を震わせる。それでも恐る恐る覗き込んだ瞳には、禍々しい嫌悪が映っていた。


なのに、そのはずなのに、目が合ったその瞬間。彼はひとつ、瞬きをした。そして、その瞳を大きく広げていく。ついさっきの淀んだ色はそこにはない。初めて未知のものに触れる子供のように澄んだ視線で、彼は私を捕らえてしまった。

その視線の理由は私には分からない。だけど、目を逸らすことはできなかった。彼の真摯な眼差しから逃げてしまうのは、何か、運命を捻じ曲げてしまうような気がして。そんな大袈裟すぎる言葉で飾りたくなるほど、彼の瞳は輝いていた。
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