想いの箱の鍵探し

ヒワダジムは虫タイプを専門とするジム。だから炎タイプの彼方は断然有利だ。…こっち見てくれないけど。上手く戦えるのかな。とりあえず作戦としては、最後のほうに出てくるであろう主峰ポケモンを彼方で倒し、それまでは漣に頑張ってもらう…という感じだ。

「こんにちは、僕がジムリーダーのツクシだよ」

フィールドに現れたのは、私より幼いくらいの少年だった。若くてもジムリーダーってなれるもんなのか、相当な実力の持ち主なんだろう。

そしてさっきから気になっているのは、観戦席にいる知らないお姉様方。ジムに入って行く時、観戦してもいいですかと声を掛けられ、とりあえず頷いてみたものの、彼女達は凄まじかった。…歓声が。

ツクシくんのファンクラブ?のようなものを組んでいるらしく、ツクシくんが何か動作をするたびにきゃあきゃあと…若干五月蝿い。ツクシくんもそれには苦笑いだ。まあ、一見女の子のようにも見える、あの愛らしい容姿に射止められてしまったというのは分かるけども。

「では、両者ポケモンを出してください」

「漣、お願い」

「ストライク、出番だよ!」

「きゃあああツクシくんがボール投げたわよお!かわいいい!」

『…ヒナリちゃん、何あれ?』

「さ、さあ…?」

漣が顔をしかめる。私だって、なんでこんなことになっちゃってるのかよく分からないんだ。単に観戦してたい、って言ってただけなのに。

でも外野に気を取られている場合じゃない。ていうか、ストライクって…!全く読みが外れてしまった。とりあえず何とかしなくては。

「では、バトル開始!」

「ストライク、とんぼがえり!」

とんぼがえり!ストライクは猛スピードで漣にアタックをかますと、そのままボールに戻っていく。スピードもパワーもあるあの攻撃は、かなりのダメージを食らいそうだ。

「漣っ、大丈夫!?」

『平気平気、俺の特技は"耐えること"だよ、ヒナリちゃん。このくらいじゃくたばらない』

何てことなさそうに漣は笑った。大丈夫…みたいだ。自分で言うだけあって、耐久力はかなりあるようだ。彼方とはまた違ったタイプの戦い方、頑張って考えなくては。

「行けっ、トランセル!」

また外野が騒いだけどもう無視だ。現れたのはトランセル。トランセルも漣と同じで、耐久力がキモのポケモンだけど…ここは漣を信じてやってみるしかない。

「漣、みずのはどう!」

「トランセル、耐えるんだ!」

「それからこおりのつぶて!」

二度の指示にも漣は機敏に対応してくれた。みずのはどうを耐え切ったことで生まれる少しの油断、そこにこおりのつぶてが襲いかかる。いくら自慢の耐久力でも、連続で来られたらびっくりして、ガードも薄くなる…よね?

そうして何とかトランセルを戦闘不能に追い込むことができた。外野から「ツクシくーん負けないでーっ!」の声が余計大きくなる。ツクシくんは笑ってはいるけど、だいぶ鬱陶しそうだ。それに、漣の横顔は心底嫌そうな顔をしている。洞窟でのこともあって、迷惑をかけるような人間は大嫌いみたいだ。だけど振り返って私に見せる笑顔はいつも通り。…さすが、"耐えること"が得意なだけある。だけど無理はさせたくないトレーナーの気持ちだってある。

「漣、ありがとう。戻って?」

『…ありがとうヒナリちゃん。あとは任せたよ、彼方』

漣をボールに戻して、今度は彼方の出番だ。

「彼方、よろしく…ね」

『…うん、頑張る、よ』

一瞬、こちらを向こうとしたのか彼方は首を回すが、それは私の顔を見る前に止まってしまった。こっちもこっちで無理してるみたいだけど、頑張ってもらうしかない。ツクシくんもストライクをもう一回出して、不安な気持ちのままバトル開始だ。

「ストライク、でんこうせっか!」

「スピードスターで邪魔して!」

彼方は物理技が得意な分、特殊技はあんまり威力を持たない。だからスピードスターの威力はあんまりなんだけど、それでも妨害にはなる。ストライクがスピードスターに対処してる間に背後に回り込んで、そのままかえんぐるまを決めてくれた。効果は抜群。…というか、指示してなくても自分で判断してくれたみたいだ。なんだか彼方に申し訳ない。

「ストライク、負けられないよ!とんぼがえり!」

「もう一回かえんぐるま!」

動き自体はストライクのほうが速かったが、火を纏った彼方に、ストライクは触れることができない。そのまま彼方がストライクの懐に突撃すると、またきゃあっという悲鳴が聞こえてくる。

そしてついに、彼方がストライクから離れると、ばたんとストライクは倒れてしまった。

「ストライク戦闘不能、チャレンジャーの勝利!」

審判の声に、ふうと胸を撫で下ろす。最初こそどうなるかと思ったが、こちらのペースを崩すことなく戦うことが出来た。

「彼方っ、やったね、!」

『う、うん…。ごめんね、勝手に、動いちゃって』

ううん、いいんだよと首をふると、また顔を赤くして自らボールに帰ってしまった。まだ、ダメみたいだ。

「どうして君のマグマラシ、そんなに照れてるの?」

バッチを渡しにきたツクシくんにも心配されてしまった。いやまあ色々あって、と適当に誤魔化す。それと謝られてしまった。あの人達、五月蝿かったでしょ?と。私はいいんだけど、漣が嫌そうなのは辛い。後で愚痴を聞こう。そうすればちょっとは楽になるだろう。

「じゃあこれがインセクトバッジだよ」

「えっと、ありがとうございます」

「こちらこそ、対戦ありがとう!」

そう言って、ツクシくんは片手を伸ばした。握手…したらまた五月蝿いだろうけど、まあもういいかなと思ってその手を握る。例のお姉様方の反応は予想通り喧しかったけど、気にしたことじゃない。




その後ジムを出ると、例のお姉様達に取り囲まれた。ものすごい威圧感だ。

「えっと、何の御用ですか…?」

「握手してくれませんか!」

「へ?」

「ツクシくんと握手した手!」

「きゃあ、触らせて触らせて!」

そう言ってお姉さんの一人が私の左手をがっちり握った。い、痛い。それを皮切りに他の数人のお姉様方もきゃあきゃあと私の手を奪い合いだしてしまった。やめてくださいの声も届かない。うわあ、なんだろうこれ。

なんて半分諦めてたら、急に両肩を掴まれ、そのまま後ろに。見上げると、漣だ。いつの間にかボールから出て人型になっていたらしい。後ろから抱き寄せられて、そのまま背中を彼に預ける。それから漣は必死に怒りを抑えた表情で言い放った。

「止めてもらえませんか、迷惑なんだよ」

漣は世間一般的に見ると、とても整った顔をしている。所謂イケメン、というのに分類されるだろう。そんな男性に冷たく言い放たれて、お姉様方は一歩、また一歩と離れていく。そしてうわの空のまま、どこかへいなくなっていった。

「漣…あ、ありがとう…」

「お礼ならデートがいいな。うーん、でもさすがにいきなりすぎるか…でもその前に拗ねてる彼方クンのお話を聞こうかな」

あれ、彼方? 辺りを見回すと、やはりいつの間にかボールから出て人型をとっていた彼方がジムの看板の物陰に隠れていた。いいところを漣に取られて、いじいじとしている。今すぐ慰めに行きたいけど、止められてるんだった。私は困ったように笑うことしか出来なかった。
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