想いの箱の鍵探し

ウバメの森。鬱蒼と茂る木々に囲まれたここは、炭焼き用の木がよく採れるという。それでもこの森が今も昔も姿が変えないのは、きっと地元の人の丁寧なお世話のせいなのかなあ、なんて思いを馳せる。

私の先をマグマラシの姿で歩く彼方は未だに目を合わせてくれない。いい加減このままじゃいけないと思い声を掛けてみても、ぎこちない返事が返ってくるだけだ。人のかたちで私の隣を歩いている漣曰く、「あれでも頑張ってる」らしいんだけど。寂しいし、ちょっと張り合いがないと思う気持ちだってある。

ぼけっと歩いていると、不意に彼方の足取りが止まった。何か見つけたみたいだ。

『祠、かな』

「そういえばウバメの森の祠って、森の神様・セレビィを祀ってるっていうのをだいぶ昔に本で読んだよ」

「へえ…、お賽銭とかできるかな?」

「どうなんだろう…お賽銭箱はないね」

二人と一匹で、その祠の様子を眺める。特に変わったところは何もない、普通の小さな祠だ。強いて言うなら少し空気がぴりりとしているような、していないような。

「神様がいるんなら、お祈りくらいしても構わないよな?」

「うーん、そうなの?」

神社とかではないからどうなのか分からないけれど、早速漣は律儀に二礼二拍手一礼をしている。それに習って、私も彼方も手を合わせた。ーー彼方の調子が早く戻りますように。それで、一緒にシロガネ山の頂上からの景色を見れますように。

ーーふふ、ははは。

一瞬、ほんの一瞬だ。誰かの笑い声が耳を掠めた。彼方や漣の声ではない。もっと小さな、悪戯っ子そうな子供の笑い声。

「彼方、漣、今笑い声聞こえなかった?」

「…?何のこと?」

二人に尋ねるけど、漣は全く聞こえてないと言うし、彼方も小さく首を横に振る。ポケモンである以上、私は彼らより耳は聞こえないはずなんだけど…セレビィ?それともまさか、幽霊とか?なんて考えただけで寒気がするから、今すぐ忘れよう。

***、さは

怯えながらも何とか森を抜けて、そこからは一本道。育て屋さんなんかもあったけど、まあお世話になることは滅多にないだろう。スルーしてそのままコガネシティに足を踏み入れた。

ヒワダやウバメの森とは打って変わって、高層ビルやマンションや、おまけにラジオ塔まであるこの街は、とにかく華やかだった。人も多いし、ポケモンも多い。こんな都会に来たことがあるのは私達の中に誰もいないから、三人とも歩くだけで精一杯だ。

「兄ちゃん、あんたええ顔しとんなあ!100年に一人の逸材やって!なあ、うちでモデルやらへん?がっぽがっぽ儲けさしたろ、おばちゃんに任しとき!」

「いえ、お断りします…」

「なあなあそこのお嬢ちゃん、観光やろ?写真撮ったるからちょっと俺らの漫才聞いてってくれやん?今駆け出し中の"モモンチーゴ"言うんやけどな、絶対笑かしたるで!」

「いえ、あの、いいです」

「自分、元気なさそうな顔しとるなあ、そんな時は、どや!うちのたこ焼き!たこ焼き食うたら元気百倍やで、まあ一口食うてみい、騙されたと思て」

「…おいしそ」

「彼方ー!そんなんしてると置いてくぞー!」

コガネ弁のマシンガントークに気圧されつつ、何とかポケセン前まで辿り着いた。迷路のようなウバメの森を抜けるより、コガネの街中を歩くほうが疲れると思うのは気のせいだろうか。人々の活気も本当はきっと楽しいものなんだろうけど、慣れない私はついていくことができない。

『おねーさん、足元失礼するねっ!』

はあ、とため息をついた時。ぴゅん、と何かが私の足元を通り過ぎていく。驚いて転びそうになったけど、それは彼方が肩を支えてくれたことで阻止された。ありがとう、と言おうとすると、今度は人間が私達の間を駆けていく。

「ちょっとおー!逃げないでもらえますかーパチリス様ぁ!」

「どうかお嬢様の元へお帰りくださいませー!」

真っ黒のスーツを来た男性だ。そのかっちりとした姿が、街に全く溶け込んでいない。そんな人達が何人かわらわらと、さっき私の足元を通った何かーーどうやらパチリスらしいーーの向かった方向へ走り去っていく。「何やろ今の」「何かのイベントとちゃう?」街の人々も驚いたようで、辺りがざわざわとし始めた。パチリスって、確かシンオウ地方のポケモンだったような。ジョウトにも生息してたなんて話は聞いたことないけど…。

…て、そんなことよりも、だ。言いそびれたお礼を。

「彼方、彼方、」

「だっ、大丈夫だ、よ!ポケセン入ろ、ヒナリっ」

そう言う彼方はやっぱり真っ赤で、視線がぶつかることもない。だけど今、すごく久しぶりに、ーー名前呼んでくれた…?

ずっと当たり前のことだったのに、何でこんなにも嬉しいんだろう!口元がにやけてくる。今すぐ彼方の傍に寄って触れたいけれど、それは叶えられない。うう、何という拷問。

私の隣にいたはずの漣が今度はいつの間にか彼方の隣にいて、ぽんと頭に手を置いた。その背姿は、よく頑張りました、とでも言っているみたいだった。
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