想いの箱の鍵探し
コガネシティはポケモンセンターも混雑していた。彼方と漣の二匹だけなのに、預けるのにも受け取るのにも時間がかかる。田舎育ちの引きこもりなせいなのか、並んでいる列にいつの間にか横入りされていたり、人の流れに負けてもう一回最後尾に戻されたり、散々だった。
それでもなんとか部屋を予約することは出来て。明日はどうしようかな、コガネデパートやラジオ塔や、見たいところはたくさんあるけれど、まずはジムが先決かなあ。彼方と漣は疲れたのか、さっさと布団に入ってしまった。ちょっと退屈だ。
ふと思い立って、彼方の眠るベットに腰掛ける。久々に間近で見る彼方に、やはりどうしようもない気持ちになった。寝顔なんて見るのは本当に久しぶりだ。ここまで安心しきった顔なんか、滅多にみれるものじゃない。たまに動く唇が何を言っているのかは分からないけど、夢を見ているんだろうか。
んん、と彼方が少し声をあげた。…これ以上いると起こしてしまうだろう。私ももう布団に入ろうかな、と思った午前12時過ぎのこと。
『おねーさーん、ねえねえ、ちょっとー?』
どこかからか声が聞こえた。可愛らしい少年の声だ。でもこの部屋には彼方と漣しかいない、しかも就寝中だ。辺りを見回しても誰もいないし。気のせいだったのかな、と布団をかぶると、また声が聞こえた。
『あっ、声は聞こえてるんだ!じゃあ窓際見てよー!…なんて言っても通じるわけないか』
「窓際にいるの?」
『えっ?』
窓のカーテンを開けると、そこにいたのは小動物のようなポケモンだった。白くて大きな尻尾、そしてこれまた大きくてくりくりとした瞳の…これは、パチリス?もしかして、昼間黒い人達が追い掛けていた子、かな。
『え、なんで?おねーさん、エスパータイプか何か?』
「うーん、残念ながら人間だけど…。ちょっと変わってるというか」
いっそのこと、と思って窓ももう開けてしまうと、そのパチリスくんはぴょん、と私のベットに乗っかった。
『それならより一層好都合だよ!ねえおねーさん、ちょっとお出掛けしない、夜のお散歩!いいでしょっ?』
パチリスくんはにこっと笑って、小首を傾げた。言うなれば天使。動作がいちいち愛らしい。上目遣いだとか、口調だとか。だけれども、さすがにこんな深夜に出掛けるのは気が引ける。しかもここはコガネシティだ。夜中は怖い人もたくさんいそうなイメージもある。
「残念だけど、さすがにもう夜暗いから…」
『ええっ…僕、せっかくお屋敷抜けてこれたのに…。お願いっ、一晩だけ!おねーさん…』
そう言って瞳を潤わせるパチリスくん。効果音をつけるなら、きゃるるるーん!…みたいな。幸い、彼方と漣は寝ていて、バレて心配かけることもなさそうだ。一晩だけ、少しだけならいいかな。私はカーディガンとジャケットを羽織って、それなりに外に出てもいい格好に着替えようと立ち上がる。
『…っ!いいの!?』
「ちょっとだけ、ね?」
『やったあ、ありがとうおねーさん!大丈夫だよ、何かあっても僕が守ってあげるから!』
パチリスくんはぴょんぴょん無邪気にベッドの上を跳ね回っている。ここまで喜ばれると、なんだか私まで嬉しくなってくる。というか、多分私がこの子にここまで弱いのは、ヒノアラシ時代の彼方の純粋さと姿が被るからじゃないかなあと自己分析。
『じゃあ行こうっ!おいでおねーさん!』
「え、窓から出るの?」
『だって普通に玄関使ったらそこの二人にばれちゃうだろうし、多分僕を追っかけてきてる奴らと鉢合わせになる可能性もあるもん。あいつら、ポケセンに入ってったから多分ここに泊まってる』
…やけに頭がいいんだなあ。この小さな身体なのに。まあそうでもないと脱走なんて出来ないだろう。
そうして、私は人生初の、窓からの外出を達成したのだった。
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