想いの箱の鍵探し

「そういえばパチリスくん、お嬢様が何とか言ってたよね?」

パチリスくんを肩に乗せ、夜のコガネを歩く。窓から覗く光やネオンがぎらぎらと眩しくて、昼間みたいだ。目をぱちぱちさせながら歩く私とは違い、パチリスくんは慣れっこのようだ。さすが文明社会の中にいただけある。

『あんなのぜんっぜんつまんない!どこにも出してくれないし、ずっとおままごとしかしないし、…てか僕のこと女の子だと思ってるし!あんな牢獄生活嫌だ!』

「でも、心配してると思うよ、その子」

『大丈夫、僕だって前に逃げ出した他のパチリスの代わりだもん。追っかけてくる奴の話聞いてたらもう代わりはいるらしいけど、あいつらは一応捕まえるのが仕事だから追っかけてくるだけ。といっても、コガネで見つからなかったらもういいって言ってたけどね』

そのお嬢様もなかなかえぐいことをするもんだ。いくらでも代わりはいるもの、なんて。というか、可愛らしい見た目の割に壮絶な人生?ポケモン生?を送ってるようだ、この子。

「閉じ込められるのは辛いもんね」

『…、まあね。あっ、ここ入って、ここ』

パチリスくんが急に一方を指差した。看板を見ると…、地下通路?何だろう、ここは。

「何があるの?」

『いいからいいからっ!大丈夫、コガネシティの地理は逃げ回った時に全部頭ん中に入れたから、迷子にはならないよ!』

「…パチリスくん、頭もいいし記憶力もいいんだね」

『そんなのとーぜんっ…じゃなくて、そんなことないよ!僕まだまだ子供だし…』

とりあえずこのパチリスくんを信じて、暗い階段を降りていく。そして下り終えた時、私は目を見開いた。

「わあ、すごい…!」

そこはまさに地下街。昼間の街中のように出店が並んでいるが、店々は暗く、怪しげだ。それがどこかスリリングな光景に見えて、私の心が跳ねていく。

『おねーさん、あんまりこういうところ来たことなさそうだし。じゃああのお店行こうよ!』

「地下街なんて初めてだよ…!うん、行こう!」

人生初の、言うなれば夜遊び。危険だとか、後で彼方達に何て言われるかとか、そんなことより好奇心のほうが勝ってしまったのだ。だから、私はその不穏な影に気付くことが出来なかったのかもしれない。

***

『ふぅーっ、さっぱりした!』

満足げなパチリスくんは、さっきよりも一段ときらきらとしている。ポケモン用のアクセサリー屋さんを見た後、ポケモン用のお好み焼きを買って、ポケモン用のクレープも買って…、そして今、パチリスくんは美容院でシャンプーとリンス、それからカットまでしてもらったところだ。すっかり彼が主人で私がメイドみたいなこの関係に違和感を覚え始めたのが遅かった。

「パチリスくん、もしかしてこれが目的…?」

『おねーさんおねーさん、次あそこ行きたい!写真館!』

そろそろ眠気と疲れが襲ってきた私は曖昧に返事をすると、彼の元に歩いていく。その歩調があまりにものろのろと不安定だったせいか、途中で道行く男性に正面からぶつかってしまった。

「わっ」

「す、すみません…!大丈夫ですか?」

そう言ったあと私はさっと青ざめていくのが自分でも分かった。その男性が持っていたたこ焼きが、べっちゃり服についてしまっている。それは紛れもない私のせいだ。

「ごめんなさい!あの、弁償とか」

「ええですよ、そんなん。その代わり…つったらあれやけど、あのパチリス貰ろたりできまへん?」

「…えっ、」

「パチリスなんて、ジョウトじゃそうそうお目にかかれないやないですか。高く売れるんですわ、これが」

驚いて顔を上げれば、温和そうだったその人の雰囲気ががらりと変わったのがわかった。鋭い目つきの、ハンターのような。動こうにも動けなくて、ただその場で心臓の鼓動をばくばくと鳴らすことしかできなかった。

気がつくと、私のだいぶ先を歩いてたはずのパチリスくんが私の肩にぴょんと飛び乗ってきた。あっ、とその人が声をあげて、パチリスくんに手を伸ばす。しかし、

『ばーか!』

「いっ、てぇ!』

男性は手を振り回している。…パチリスくんが、彼の手に軽い電撃を流したのだ。よほど可笑しかったのか、パチリスくんはけらけらと笑っている。だけどそう思った次の瞬間、『逃げるよ!』と耳元で囁いた。そうだ、こんなチャンスはもうない!私は全速力で地下街を走った。

「あっ、てめぇ逃げんな!」

よく考えたら、別に私はこの子を捕まえたわけでもないし、野生に近い状態のこの子が誰に捕まっても何の問題もなかった。なのになんでこんなに私は走ってるんだろう。いい感じに、このパチリスくんに流され続けているような気がする。そう疑問に思うより、まずは逃げるほうが先決!
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