薫は雪にうずもれた
ジョウト地方巡り、新人トレーナーおすすめの順路でいくと、次はエンジュシティのジムを目指すのが一番。私もそれに従って、エンジュを目指すつもりだったんだけど、それは35番道路を歩いている時の彼方の一言によって覆された。
『キキョウシティで煌輝と瑞芭が食べてたやつ、食べたかったなあ…』
「何だっけ、三色団子?」
『そうそれ!』
あの時はまだ険悪モードが漂ってたから言いにくかったのかな、実は食べたかったなんて。でもまあ、急ぎの旅をしているわけじゃないから、たまには寄り道してみるのもいいだろう。そういうわけで、私達は大都会コガネシティを出ると、35番道路を越えて、キキョウシティを目指し36番道路までやってきたということだが。
「…何これ」
理央が呆れて呟くのも当然だ。普段の道路に一本だけ明らかに怪しい木が生えている。この木のせいで、キキョウとコガネ間が繋がらないらしい。立ち往生している人達を避けながら、その木をまじまじと眺める。他の木々よりだいぶ色も濃ければ、幹も細い。根元もなんとなく不自然だし。…怪しすぎる。
さて一体どうしたものか、うーんと考え込んでいると、バトルする用に原型だった彼方が任せて!と一歩前に出る。もしかして、燃やす気なんだろうか。
「彼方、燃やすのはさすがに可哀想…」
『大丈夫、多分あんまり効かないから!』
そう言って炎をその木に向かって放つ彼方。だけど木は燃えない。むしろ、炎を弾いているようにも見える。まるでそう、岩、みたいな。彼方はそれを確かめて、ちょっとにやりとしながら振り返る。
『ほらね?…ねえ理央、理央なら分かるでしょ?』
「…ああ、なんだそういうことか!」
その時、理央の口元がにやりと上がったのが見えて、嫌な予感がする。あれは悪戯っ子の顔だ!そして彼方と顔を見合わせてにししと笑い合っている。彼方まで、いつの間にそんな悪ガキになったんだ。
そして私も、考えるうちにこんな木に少し思い出すことがあった。昔に読み漁った本のおかげで、知識はそれなりに豊富だと自負している。彼方もそれを一緒に見ていたし、理央も例のお嬢様の元で色々学んだらしい。ただ一人頭上に?マークを並べて、なんだこれ、と呟いているのは漣。だけど漣が、この謎を解くキーとなる。
「もう、駄目だよ彼方、そんないきなり燃やそうとするなんて。漣もそう思うでしょ、ただ生えてるだけじゃん、なのにいきなり燃やされかけて、この木可哀想だと思わない?」
「え?ああ、…まあな。この木に罪はないのは事実だけど…」
『じゃあさ漣、僕が謝るかわりに漣が水をあげてよ!僕にはできないもん…』
わざとらしく理央につられて、彼方まで漣をそそのかす。もうこうなったら止められないだろう。私はただ頭を抱えるしかなかった。哀れ、この"木"。
「それもそうだな。よし、ちょっと俺が気を利かせてやろうじゃないの!」
「ひゅーひゅー、さっすが漣様ー!かっこいー!」
『やっぱり漣は優しいね!困ってるポケモンはほっとけないんだよ!』
「そこまで褒めるんじゃねーよ照れるだろー!まあほんとのことだけど!」
「漣、それは、あの…」
やっぱり止めようと思い立ったのが遅かった。人がいないのをいいことに、漣は木の根元にしゃがみこむと手を振りかざして、水を与えている。少し人型の時でも水使えるんだ、と感心。しかもおだてられて調子に乗ったせいか、かなり大量の水だ。そんなのにこの"木"が耐えられるわけもなく、悲鳴を上げている。
『ぎゃああ!ちょ、お兄さん何してくれんの!てかそこの少年とマグマラシ確信犯でしょ!』
「あれー?今この木喋ったー?」
『理央、多分気のせいだよ。僕聞こえてないし』
「え、そうか?俺にもなんか聞こえたけど」
『気のせいだよ!ほら、漣この前買ってきたそのヘッドホンでよく音楽聞いてるじゃん、耳が疲れたんだよ、きっと!』
「は、はあ。じゃあもうちょっとあげちゃおうかな」
漣が意外と単純な脳細胞だということが今判明した。確かラプラスってポケモンの中でも知能が高い分類だったはずだけど、個体差なのかな?…なんて、なんだか漣にとても失礼なことを考えている気がした。でももうさすがに私も見兼ねて、漣にストップをかける。
「漣、もうやめてあげて?」
「どうしたのヒナリちゃん、そんな切なそうな顔しちゃって」
「その木、ポケモンなんだよ」
「へ?」
漣のぽかんとした顔はコミカルで、少し吹き出しそうになるけど、今はそうしてる場合じゃない。トレーナーとして、ちゃんと怒らなきゃ!これからまたこんなことがあって、周りに迷惑をかけたらいけない。私は彼方と理央のほうを向くと、腰に手を当てて精一杯怒る。
「あのね、あんまりいじめるのは駄目!このウソッキーさんが何の意図があってここにいるのかは知らないけど、それにしたって可哀想でしょ?」
『…はぁーい』
「だって反応面白いし!いいじゃん邪魔なの事実なんだから!」
「それでも、何の話も聞かずにいじめるのは駄目!理央は賢いんでしょ、なら物事の分別はつけれるよね?」
「…ヒナリ、なかなか僕の使い方分かってきたね」
素直にしょぼんとする彼方はまだ改善の余地があるけど、理央はまだ反論したいけど堪えている、といったような表情だ。全くこの子はもう!頭の回転が早いのはいいけど、悪巧みに使われたら困る。
『ごめんね、ウソッキーさん』
『マグマラシよ、分かってくれたのか…!』
「わあ、本当にポケモンだったのかよ!やっぱり俺知らないことたくさんあるなあ…」
彼方がぺこっと頭を下げたのに対し、理央はぷいとよそを向いたままだ。りーお?と軽く睨みつけると、理央も渋々ウソッキーに対して言葉を放つ。けれどやっぱり口調は刺々しくて。
「いじめたのは悪かったけど、さっさとどいてくれる?あんたのせいで色んな人もポケモンも困ってんの!分かる!?」
『ぎゃあごめんなさいごめんなさい!たまたま良い窪みがあるなと思って!ほら、狭いところって落ち着くでしょ?それでおいら、ずっと入ってたらそこが道路なんて知らなかったもんで!だから水はもうやめてええ!』
ウソッキーは悲痛な叫び声を上げたかと思うと、ずどんずどんと地響きのような足音を鳴らしてまた木々の中に紛れていった。ああ、あれは絶対草タイプの足音じゃない。岩タイプと聞いて納得できる足音だ。一件落着とため息をついて、さあもう少し歩けばキキョウシティとお団子が待っている。
『ていうか、理央結局ちゃんと謝ってないじゃん!』
「えー。だって実行犯は漣だし」
「え、俺なの?…まあ、そうかもしれないけど」
「漣、甘やかしたら駄目だよ!ちゃんと駄目なものは駄目って教えなきゃ」
「ご、ごほん。駄目だぞ理央、可哀想だろ?」
「やーい撫で肩ー!」
『…れーんー、泣かないでー。よしよーし』
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