刹那を恐れ愛おしむ

再びコンテスト会場に戻って来たのはビジュアル審査が始まる直前で、ぜえぜえと息を切らせながらコンテストの様子を見ることとなった。

いろりさんに誘拐…というか、連れて行ってもらった先はなんとあのエンジュ踊り場。テレビでもよく特集が組まれるくらいの人気観光スポットだ。そんなところにいろりさんはずかずかと入り込み、警備員さんの検問すら顔パスで通り、そして私達三人をそれぞれ個室に入れた。その後ここのスタッフさんによって、なぜか着物の着付けをしてもらったのだ。

可愛らしい桃色の着物を、あれよあれよと言う間に着付けられ、嬉しくないと言えば嘘になる。私だって、少しくらいお洒落してみたい気持ちだってあるんだから。でも、どうしていろりさんはこんなことをするんだろう、そればかり不思議だった。

その後同じように着替えさせられた彼方と千紘と合流。彼方は橙色の着物、千紘は枯色の着物に若葉のような色の羽織を見事に着こなしていて、少しどきどきする。というか、自分の着物姿が彼らと比べて幼いように思えて、なんだか恥ずかしかった。いろりさんも、彼方も千紘もよく似合っていると褒めてくれたけど、…もう少し、年相応に大人っぽくなりたい。

そんなことをしている間に時間が足りなくなって、現在に至る…というわけだ。いろりさんに見送られながら走り出したはいいけれど、下駄は予想以上に走りにくくて、危うく転びそうになったりもした。彼方と千紘が手を差し伸べてくれなかったら、どうなっていたことやら。

ビジュアル審査の順番はくじで決められるらしくて、緊張のトップバッターはというとなんとコトネちゃんとマリルちゃん。

「あっ、マリルちゃんだ!久しぶりだなあ」

「…彼方、誰?」

「マリルちゃんはね、ワカバでよく一緒に遊んだ友達…というか、妹?みたいな子なんだよ」

私が外に出られない間、よく彼方とマリルちゃんは一緒に遊んでいたみたいだったっけ。彼方は懐かしそうにマリルちゃんの晴れ姿を眺めている。照れているのか、彼女はほんのりと頬を赤らめているが、そんな姿も審査員には高評価らしい。高得点の札が上がり、大きな歓声が上がった。さすがは可愛さコンテスト、可愛ければ何でもいいらしい。

ちなみに審査員は、エンジュシティのジョーイさん、ジュンサーさん、ジムリーダーのマツバさんなどと言った、エンジュの有名人達だ。特にマツバさんにはそのうちジム戦を挑みに行くし、ついじっと観察してしまう。何を考えてるのか分からないけど、とりあえず笑顔で固定された表情。一切それを変えることなく、得点の札を上げ下げするマツバさんは、どことなく不気味だ。

「続きましては、煌輝さんとピカチュウ!…おや、これはこれは。彼、オスですよね?随分と可愛らしい」

「あはは、でしょー?ぴーくんって呼んであげてねー」

舞台に現れたぴーくんはものすごい形相をしていた。心底嫌な気持ちを必死に抑え、無理やりに笑顔を作っている。…それもそのはず、両耳にはリボン、頭にはティアラ、そしてやたらゴテゴテと羽や綿毛を付けられたぴーくんは、まるで女の子。観客からも驚きの声が上がり、審査員もそのギャップにやられたのか、なかなかの高得点の札を挙げている。ただ、表情は死んでいるけれど。どう反応したらいいのか分からない私は、はは、と薄い笑いを貼り付けていた。

「そしてラストを飾るのは、漣さんとパチリスの理央くんですー!おお、まるでアイドルですね!…って、わ、ちょっと!」

『みんなーっ、僕の可愛さに跪けーっ!』

キャーッ!と黄色い歓声が上がる。理央が司会者のマイクを奪って叫んだのだ。普通に聞けば、単に愛らしい鳴き声なんだけれど、台詞の内容まで聞こえてしまう私達はとほほと笑う一方だった。舞台上の漣も同じように頭を抱えている。…ご苦労様、漣。

それにしても、アクセサリのセンスは一番じゃないだろうか。薄黄色の綿毛を繋げてファーのようにしたものを首に巻いていて、その所々にはラメが編み込まれてあるから、角度を変える度にきらきらと輝く。さらにアクセントとして、右肩辺りに付けられた濃い青のリボンがよく映えていて、シンプルながら確実に人の目を引く姿だ。理央自身の愛嬌たっぷりの仕草もプラスされて、これで高得点が出ないはずがない!

「漣さんと理央くん、最高得点です!」

『当然でしょ!』

審査員が上げた札は、ほぼ満点に近い点数で。前代未聞の高得点です、と司会者も叫ぶほどだ。そんな中ぴょんぴょんと舞台上を飛び回り笑顔を振りまいている理央は、本当にアイドルさながらだった。

それからの2次審査のダンス、3次審査の演技の両方をぶっちぎりの一位を獲得した理央は、コンテストの伝説となったんだとか。もちろん、結果は優勝。コンテストが終わり、舞台裏の前まで迎えに行くと、抱えきれないほどの優勝賞品を持った漣と、人型になった上機嫌の理央がいた。とりあえずは労いのお言葉を。

「理央も漣も、お疲れ様!」

「ふふん、どう?この僕の大活躍!」

「すごかったよ理央!僕もたくましさとか、出てみればよかったな」

「…漣、差し入れは…?」

「はいはい、それなら沢山もらってきたから千紘、ポケセン帰ったら食べような。…てか、ヒナリちゃん達のその格好、どうしたの?」

そういえばそうだった。袖をひらりとはためかせて、さっきの理央ほどではないけど少し気取ってみる。でもやっぱり気恥ずかしくて、中途半端になってしまった。

「どう…かな?」

「…、ヒナリちゃん、」

漣は顎をつまんでしばらく考えた後、突然私の両肩をがしっと掴んだ。急なことでびっくりしてしまって、思わず軽く悲鳴をあげてしまうけれど、それでも漣の表情は真剣だった。

「な、何…?」

「すっごい、可愛い」

恐ろしいほど真面目な顔をして言うから、もしや何か怒られるのかとすら思ったのに。冗談抜きの言葉は、少し恥ずかしい。ターコイズ・ブルーの瞳はじっと私を見つめ、目を逸らさせてくれなかったけど、…突如、その表情は悲痛に歪んだ。

「痛たた!何してんの千紘!」

「…?ヒナリ、困った顔してたし。助けなきゃって」

漣の叫びにもしれっとした顔の千紘は、ぶにっと漣の頬をつまんで引っ張っている。折角の綺麗な顔が台無しである。さっきの真剣な表情から一転、なんとも間抜けな顔につい吹き出すと、ヒナリちゃんちょっと!と漣に怒られてしまった。そのうち不貞腐れてしまった漣を彼方が慰めていて、それすら可笑しい。グッジョブ、とばかりに親指を突き立ててる理央も可笑しいし。

「俺だってたまにはさ、こういう雰囲気作ったっていいじゃんか…」

「漣大丈夫だよ、適材適所って言葉あるでしょ?そういうことだよ!」

「それフォローになってない、てかむしろ傷抉ってるの分かってる彼方…?」

「ねえヒナリ、あの馬鹿達はほっといてさ、二人で出店回ろ!いいでしょ?」

ふふ、と笑っていた隙に腕を絡ませてきた理央は、私を上目遣いで覗き込むと、姿は違えどステージで見せたあのあざとさ満点の笑顔を振りまいてきた。うう、ずるいなあ。わざとと分かり切っているのに。

「…焼きそば?たこ焼き?わたあめ?」

「あ、待ってよヒナリ!僕らも行こう漣!」

「だから急に引っ張るなって彼方ぁ!」

そのうちついて来た彼方達と騒ぎながら、出店の並ぶお祭りの中心部へと向かう。みんな一緒は、やっぱり一番楽しかった。
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