夕陽の隣で歩むこと
簡単にお買い物をしてからポケセンへ向かう道、まじまじと祐月の姿を観察する。一番特徴的なのはかなりの長さ、腰くらいまであるポニーテールだ。月の色の髪は毛先だけオレンジがかっているけど、これもお洒落の一つなのかな。首を傾げたり目を逸らしたり、くすりと笑ったり、何気ない小さな動作をするだけでふわりと揺れ動く様子は優美で趣深い。瞳はキュウコンの姿のときと同じ、真っ赤。彼方も同じ赤い瞳だけど、比べてみると祐月のほうが少し朱に近いような気がする。目尻もはっきりとしていて、カッコイイというよりは、美人といった雰囲気だ。そんな顔とは対照的に、だぼっとしたニットのカーディガンを着こなしているのも、なんだか隙があるというか、所謂抜け感?みたいなのがあって。
「…そんなに見ないでください」
ぷいと顔を背けられるけど、そんな姿もいじらしい。彼方なんか隣に並んで腕組んじゃってるし。ちょっと年上のお兄さんが出来た気分なんだろうな。漣みたいな頼りがいのあるお兄さん!って感じじゃなくて、ちょっと危うくて、放っておけないお兄ちゃんというか。
で、その何かと比較されがちな漣はというと。祐月を挟んで歩く私と彼方の背中をじっと見つめているらしい。…さっきから視線が痛いのだ。理由はきっと、年長者ポジションを奪われかけて拗ねているからなんだろうな、というのはなんとなく空気で察した。それに加えて、理央と千紘がちょっかいをかける声からも、余計にその物悲しさが伝わって来る。…面白いからまだ振り返ってあげないけど!
「漣さあ…意外とそういうところ子供っぽいよね」
「うーん?べっつにー?俺そんなので嫉妬するほどガキじゃないんですぅ」
「…漣、嘘、よくない」
完全に、大人げない。普段ボケ気味の千紘にすら突っ込まれる始末である。漣の扱い方を大方分かっている私なんかは、彼方と顔を見合わせてくすくす笑っているけれど、まだ祐月には難しいようだ。申し訳なさそうに後ろを振り返りフォローをするが、それがさらに悲壮感を煽っている。
「あの、漣さん、なんだかすみません…。僕が何かしてしまったみたいで」
「いや、祐月は悪くないんだよ…うん。祐月は悪くない」
「悪いのは漣だもんね」
「そうそう…って、そうなのか?」
くすりと笑う祐月と彼方と私。とぼけた顔が見たくて、つい後ろを向きながら歩いていたのが悪かったのだ。千紘が「あ、」と呟いた矢先、どん、と何かへ衝突してしまった。上手く手をつく暇もなかったから、見事にお尻から。しかもこの街の道路はほとんど煉瓦造りでできているから、余計に痛いのだ。ヒナリ!と彼方の声がするけれど、それよりぶつかってきたもののほうが恨めしくて、じとっと見つめる。どうやら女の子のようだった。黒髪の、ちょうど私と同じような髪型がまず視界に映る。ごめんなさい、とつい曖昧に微笑んで彼女の顔を見た数秒後、私は驚きに目を見開くこととなった。
「ヒナリさん、こ、この人…ヒナリさんと同じ顔…!」
ど、ドッペルゲンガーってやつ?彼女は私の顔で、にこっと微笑む。そしてあっさりと立ち上がり転んだままの私に手を差し伸べるけれど、そうすぐに頭がついていかない。髪型も顔も服装も、何もかも一緒!でも彼女は私と決定的に違う。色、だ。髪の色は私よりずっと暗い青混じりの黒だし、目の色もこんな奇抜なグリーンじゃない。服装の色も、私がピンク系統なのに対して、彼女は青系統でまとめられている。言うならば、…私の色違い。
「馬鹿ヒナリ、何やってんの!…って、誰こいつ」
「ヒナリ、え、ヒナリがふたり…!?」
「彼方、違う、よく見て…。こいつ、ポケモン」
やがて追いついた彼方達も、千紘に言われてまじまじと彼女を見つめて、あっと声を上げる。彼らには人型になったポケモンか、何の種族かが何となく感覚で分かるらしかった。にこにこ笑ってばっかだった彼女は、むうとほっぺたを膨らまし、姿を変えた。
『なあにぃ、もうちょっとこの子の顔見て遊んでたかったのにぃ!むううう』
そこにいたのは、この街で祀られているもう一匹のポケモン…ラティアス。だけど目の前にいる彼女は一般的に知られる、赤を基調とした姿ではなく、黄色の身体をしている。もしかして、もしかしなくても、このラティアスは色違いだ、間違いなく。くるりんと空中でターンしてみせる彼女をぽかんと見つめる。なんで、なんで。
「何なの、変な風にヒナリに化けちゃって!悪戯なら帰れよばーか!」
『だって、この子あたし達の声聞こえるんでしょ?だったらちょっとお願いがあるの!ね、ね、いいでしょ!』
ぱっと私の手を取ったラティアスは無邪気に笑う。テンションの高さにいまいちついていけないけれど、何も聞かずに断るほど私も冷酷じゃない。黄緑色の大きな瞳にどきどきしながら、私が答えようとした時だった。突如空から降ってきた、たくさんの声。慌てて空を見上げれば、そこにいたのは数匹の…ラティオス。
『おい!そんなところで何やってんだ馬鹿腐れ妹ー!』
『うわあ見つかっちゃったあ!ねえねえお願い!かくまって!』
ラティオス数匹の怒声を浴びながら、ラティアスはそう叫んだ。か、かくまうって言われても。とりあえずポケモンセンター?そう呟くと、ラティアスはOK!と威勢良く返事をして。そして次の瞬間、私の身体は宙に浮いた。
「え、わあああ!」
「ヒナリ!ヒナリに何するの!」
『あそっか、君達この子のポケモンか!この子、ヒナリちゃん?が返してほしかったらあたしが逃げるの手伝ってー!』
「はあ…っ!?そんな無茶苦茶な、」
「漣!そんなこと言う暇があったらあんたは応戦、水路あるんだから原型戻ってれいとうビーム!祐月も漣と一緒に戦って!千紘は先回りしてポケセンの部屋準備、彼方と僕はラティアスとヒナリを追いかけるよ!いい!?」
「おい理央、あのラティアスの言うことに従うのかよ!」
「それが手っ取り早い!それからあいつをシメればいい話」
そんな鮮やかな理央の指示が飛び回る中、私はというと宙にふわりと浮いたかと思うと、そのあとラティアスの背中に着地。多分サイコキネシスだろうか。そしてそのまま、よーいどん!ジェット機が飛び立つみたいに空中を進み出す。
『ちゃんと掴まってないと落ちるよぉー?ヒナリちゃん!』
「えええ!そ、それはそうだけどちょっと待って、わああ!」
何がなんでも展開が早すぎて、ついさっきまで大聖堂でのほほんとしてたはずなのに、何で今私はさっき出会ったばっかのラティアスの背中に乗って猛スピードで逃げてるんだろう。ふと冷静になった瞬間、なんとなく悲しくなって笑えてきた。そういえば今日は祐月の歓迎会もするはずだったのに。…ああ、早くポケモンセンターに帰ってゆっくりしたい。
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