花の輪のひとつずつ

「ヒナリ…大丈夫かなあ」

「いざとなったら殴り込みに行こうな。それまで彼方、もう俺たちでヤケ酒だ!祐月もな!」

「僕も巻き込まれるんですね…」

そんな俺の言葉から始まった彼方、祐月、俺のでっかい組三人によるプチ飲み会。そして数時間経った今。どうしてこうなった。いや、言い出した俺は確かに悪いかもしれないが、それにしたってふたりともちょっと飲んだだけで酒に弱すぎだ。しかもふたりともタイプの違う酔い方だから余計に面倒臭い。俺だってそんなに強い方ではないのに、ふたりが先にうだうだ言い出すから、俺が自然と酔っ払いの話を聞く役回りになってしまっている。

「ヒナリヒナリ〜…すき…すき…だいすき…うう…」

「おおーよしよし彼方泣くな泣くなー、でもそう引っ付かれても俺はヒナリちゃんの代わりになれないんだなー。ごめんなー」

「うわ…漣さん何言ってるんですか…うわあ」

「えっちょっと待って変な意味じゃない…というかさっきからやたら毒舌な気がするんですが祐月さん、すっごい酔ってますよね?」

「飛んだ言いがかりですね。さっさとくたばっていただきたい所存」

「れんんかまってええうわあああん」

「ねえ祐月、俺より先にこっちをくたばらせたほうがいいんじゃないかな…?」

片腕を彼方に貼りつかれビャービャー泣かれ、その反対隣では毒たっぷりの言葉が飛んでくる。ほんと黙って飲んでくれてたら両手に花…なのか?まあ確かに祐月は髪もさらさらで長いし、顔立ちも女顔と言ったら女顔ではあるが、何せ言うことが全く可愛くない。彼方のほうも進化した結果すっかり可愛げもなくなってしまい、立派な男になりつつある。両手に花なわけない。これじゃあ両手に男と造花の毒花だ。

「ヒナリは、ヒナリは、うう、僕の、大事な、ひうっ、るぇんん〜」

「頑張れー彼方、呂律回ってねえぞー」

「漣さん、確かまだ冷蔵庫の中にビールありましたよね?」

「あったと思うけど…。てかなんだそのジットリした目…俺はパシリじゃねえっての…。てか祐月お前顔に出ないだけでどんだけ飲んでんだよ!もう駄目に決まってんだろ!」

てかるぇんって誰だよ。…あ、俺か。そしてさりげなくもう一杯とコップへと伸ばされた彼方のノロノロした手をはたき落とす。こいつ、意外と酒好きだ、弱いくせに。そうやってからかうと、案外ちゃんと答えが返ってきた。

「だって、僕だって進化したし、好きなひとには、なれないかもだけど、それでも、ちゃんとおどなのおどごだもんん」

「そっかそっかー、でもなー彼方、大人ははじめっから大人じゃないんだぜ?失敗と成功の塵をどんどん積もらせて、山の頂上から自分のありのままを見渡せた奴が本当の大人さ」

「う、ええ…?」

「で、だ。お前は今日飲みすぎたっていう失敗の塵を一粒積み上げました。なので、今朝の彼方クンより、明日の朝の彼方クンのほうが、大人です。ちゃんと大人になってきてるので、今日はこれ以上飲まなくてだいじょーぶ。それより、お水飲んでさっさとお布団に入って明日の朝もスッキリなほうが、おっとこまえの彼方クンです」

「んー…。そっか!そーだね!」

俺のありがたーいお説教にもさっぱり分かってない顔してるけど、とりあえず結論は理解してくれたらしい。あやして頭を撫でてやれば、にへらーと力の抜けた笑みを向けられた。

それにしても彼方はほんと単純脳細胞というか、やることが極端すぎるというか。そんな進化したくらいで一気に大人になられてたまるか。そんなこと言ったら俺みたいな無進化族はどうなるんだっつーの。ヒナリちゃんのことだって、僕はヒナリの頼れる相棒を貫くんだー!って言って、好きでいることを諦めかけてるし。まあこれはヒナリちゃん側の気持ちの問題もあるようだけど、全く世話が焼ける奴である。…まあ、満更でもないんだがな。

とりあえず、これで一匹は退治終了。もう一匹のお狐様のほうが扱いには要注意である。じっと視線を向けると、じっと睨み返された。…負けないからな。

「祐月も、そろそろ寝ような?」

「…そうですね。この状況からすると、そうなるのは当然でしょう」

「あれ、意外と素直…」

「空気くらい読めますよ。というか、寝ると言ってもそこのソファーで雑魚寝でしょう」

寝室はヒナリちゃんと千紘と理央に占拠されているからといって、俺たちに割り当てられた今日のベッドはソファーである。酷い扱いだが、まあジム戦の功労賞と言われれば黙らざるを得ない。…あれ、でも今までそういうの何もなかった…いや、申請したもん勝ちだな、これは。過ぎ去ってしまったものは仕方ない。

とりあえずすっかり眠そうな彼方の、肩と足の辺りに腕を通して抱き上げる。いわゆるお姫様だっこだ。だから何で俺男にこんなことしてるんだよ!そのままソファーの右端に投げ捨てた。

「で、祐月は大丈夫?立てる?肩貸す?」

「はい。そもそも僕はそんな酔ってないですし、貴方に肩は無いでしょう」

「……。よーし分かった!そんなにお姫様だっこされたいのか祐月はー!」

「はあ…っ!?ちょっと漣さんやめてください!このっ!」

立ち上がりかけていた祐月を無理やり抱き上げる。髪の毛引っ張られるわ蹴られるわ叩かれるわで散々抵抗されるが、まあいい。というか俺も大概酔っ払ってるらしいな!素面じゃ大の男を抱き上げるなんて絶対しないだろう。はっはっは。

ソファーの左端に祐月を投げ捨て、ぱんぱんと手を払うと、二人の間にどっかり座る。…疲れた。

「れーんー、ありがと、ねー…えへへー」

「んー、どういたしましてー。…あーあ、祐月は絶対こういうこと俺には言わないだろ?てか俺のことそんなに嫌い?」

蕩けきった口調の彼方の髪の毛を片手で撫でながら、溜息をつく。普段から俺に対しての当たりが地味に強い祐月だが、第一、俺は祐月にそんな嫌われるようなことをしたんだろうか?思い当たる節といえば、グレン島で少し喧嘩をしてしまったこと、それも俺的には和解したつもりだったんだけど。いや、それが祐月にとってはまだ引き摺っていたりするんだろうか。

そんな俺のモヤモヤをよそに、祐月はきょとんと瞳を丸くした。

「は?僕が漣さんを嫌ってる?とんだ被害妄想ですね」

「え?違うの?」

「逆に楽しいですよ。僕の一族は女系の血筋だったので、貴方くらいに年齢の近い男性と喋るというのは今までになかったことで面白いですし。要するに漣さんは、僕の、初めての、ともだ、……」

カクンと首が落ち、金糸がはらりと表情を隠した。下から覗きこむと、幸せそうな寝顔。…ああ、そう。置いてかれちゃったってゆーわけですね。もうすっかり夢の中に旅立っちゃったから、もうそんな俺の独り言も聞こえてないんだろうけど。溜息をつくと、ふたりの肩を抱き寄せた。

明日になれば、…もう今日だった。ふたりはこんなことがあったのをすっかり忘れて、いつも通りの平穏な日常を過ごすんだろう。俺の努力って一体。そう思ったけど、こいつらを放っておくのはどうも俺には出来ないらしい。やっぱり俺はこいつらにどうも甘いのだ。ふたりの肩をぽんぽん規則正しく叩いてたら、なんだか俺まで眠くなってきた。ああ、何とも面倒な最愛の仲間達の姿が、夢にまで浮かんでくる。
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