「ただいまー」
先日、無事裁判が終わった依頼元の会社の社長との会食を終えて帰宅すると緋山さんの靴が玄関になかった。
「ただいまモカ。緋山さん帰ってないの?」
出迎えてくれた愛犬を撫でながら話しかけてみるが、この歓迎ぶりを見ると緋山さんはまだ帰宅していなさそうだ。今日は何か予定があるって言ってたっけ、と昼間の会話を思い出してみるがとくに何も言っていなかった気がする。
でもまあ、そのうち帰ってくるだろうととくに気にせずシャワーを浴びることにした。
しかし、緋山さんは日付を跨いでも帰ってこなかった。さすがに心配になってきて、連絡を入れてみるが繋がらない。
リビングのソファに座りながらテレビを見ていたが緋山さんのことが気になって、全然内容は頭に入ってこない。
少しして、玄関のドアが開く音がした。寝ていたモカが起き上がって玄関の方へ向かったので、そのあとをついて行く。
「おかえりなさい、遅かったですね…って先生?」
玄関にはぐったりとした緋山さんを抱えた明墨先生がいて、どういう状況だと混乱する。
「すまない、赤峰くん。少し飲ませすぎたみたいだ」
少しどころではない気がするけど、と思いながら先生から緋山さんを受け取ってとりあえず玄関に寝かせる。モカは明墨先生に会ったことがあるから久しぶりに会えて嬉しいらしく、僕たちはそっちのけで先生に頭を撫でてもらっている。
「どんだけ飲ませたんですか…緋山さん、お酒強いはずですけど」
心配になって緋山さんの顔を覗き込むがいつもより顔が赤いものの、ただスヤスヤと寝ているようだったのでとりあえず安心する。
「彼、酔うと色々喋ってくれるから楽しくなって飲ませすぎてしまったよ」
「色々って…緋山さん何言ってました?」
僕の愚痴とかを言われていないか心配になって尋ねてみたが、先生は微笑むだけで答えてくれなかった。
「タクシーを下に待たせてるから、私は失礼するよ。夜遅くにすまない」
「いえ、緋山さんのこと送って頂いてありがとうございました」
「仲良くやっているようでよかった。それじゃあまた」
先生は意味深に笑って帰っていった。仲良く、って言ってたし変なことは言われてないだろうとポジティブに考える。
「んん、モカやめて……」
先生が帰って興味の対象が緋山さんに移ったのか、モカは緋山さんの顔をぺろぺろと舐めて起こしていた。
「緋山さん、大丈夫ですか?」
玄関に座った状態でむくりと起き上がった緋山さんを慌てて支える。
「あれ、あかみねさん?」
まだ酔いが覚めていないのだろう。ぼんやりと舌足らずに名前を呼ばれる。
「そうです。先生が家まで送ってくれたんですよ。覚えてますか?」
「そうだ。せんせいとのんでておれ……」
「っと、大丈夫ですか?水飲みます?」
玄関で座り込んで向かい合っている状態で緋山さんが倒れ込んできたので抱き留める。僕の肩に顔を押し付けると緋山さんはふるふると首を振った。
「だいじょぶです」
モカもいつもと様子が違う緋山さんが心配なのか彼に寄り添っている。
「とりあえず部屋行きましょう。立てますか?」
「くつ……」
「はいはい、靴脱がせますね」
いつもと違って甘えたな彼を少しかわいいと思いつつ、靴を脱がせて肩を支えながらリビングに向かう。
「水持ってくるので待っててください」
ソファに座って背もたれに顔を伏せ、ぐったりとしている緋山さんに声をかけてキッチンへ向かう。隣に座ったモカを撫でてたからとりあえず大丈夫だろう。
「はい、どうぞ」
モカは撫でてもらって満足したのか寝床にしているクッションの上に戻って寝る体勢だ。水を持ってきて、緋山さんの肩を叩くと顔を上げてくれたがコップを受け取ってくれない。
「水飲んだ方が楽になりますよ」
ずい、と顔の近くまで持っていくが彼は嫌々と首を振った。
「のませてください」
「はい?」
飲ませるって水を?
とりあえず口元にコップを持っていくがそうじゃないと彼は飲むのを拒否した。この酔っぱらい…と思いつつヤケでぐいっと水を口に含んで、そのままキスをする。口移しで水を流し込んで、彼の喉がこくりと動いたのを確認して口を離した。夜中にしたキスの味はお酒の味だった。僕はあまりお酒が得意じゃないから、いつも緋山さんの方が量を飲んでるけど、こんなに酔っ払ってるところは見たことがないからどんだけ飲んだんだと遠い目になる。これからどうやってこの酔っぱらいをベッドまで連れて行こうか考えてると部屋着にしているTシャツの裾を控えめに引っ張られた。
「もっと、ください」
酔っ払って少し赤い顔にとろんとした瞳。いつもとは違う雰囲気で言われて一気に体温が上がるのを感じた。そのままソファに彼を押し倒して、もう一度水を口に含む。勢いに任せて水を彼の口に流し込めば、飲み切れなかった水が溢れてソファを濡らした。
「まだ、飲みますか?」
首に垂れた水を舐め取りながら尋ねれば、緋山さんは頷いたのでもう一度水を飲ませて、今度はそのまま舌を入れて深くキスをする。こちらまで酔っぱらいそうだ。
「は、もうください」
こんなに酔っているのに彼のモノは硬さを帯びていて、腰を動かしてそれを僕の足に擦り付けてくるからその痴態に眩暈がした。
「っ、煽らないでください」
正直今すぐにでも突っ込みたいくらい僕の分身も準備万端ではあるが、彼を傷つけたくないので必死に平静を装う。
「なんで?はやく」
緋山さんは僕の首に腕を回すと今度は自分からキスをしてきた。もうどうにでもなれ、という気持ちになってキスをしながら彼のベルトに手をかけて下着まで一気に脱がせる。
「舐めてください」
そう言って彼の口に指を突っ込めば、彼は必死に僕の指を舐める。その姿が扇情的でどんどん余裕がなくなってくる。彼の口から指を引き抜けば、唾液で指がてらてらと光っている。その指でそのまま後ろを慣らす。
「んっ、も、だいじょぶだから、はやく」
今日の緋山さんはエロすぎて目に毒だ。酔っ払うとこんな風になるのかと知れて嬉しい反面、こんなひどく酔っ払った状態で先生と二人で何を話していたんだともやもやとした気持ちにもなる。
「挿れますね」
いつもはもっと時間をかけて慣らすが、流石にそこまでの余裕はない。彼の腰を掴んで一気に挿入する。
「あぁっ、ん、まって」
「無理です。緋山さんが早くって言ったんですからね」
いつもより締まりがいいナカに持っていかれないよう耐えながら腰を動かす。
「あ、だめ、きもちい」
「気持ちいいですか?良かったです」
いつもより慣らさなかったから痛くはないかと心配したが杞憂だったようだ。
「あっ、あかみねさ」
「ん?なんですか?」
こちらに手を伸ばして名前を呼んできたのでその手を取って律動を止めれば彼は握った手に頬を寄せてぽろりと一つ涙を溢した。
「すき、すきです。あかみねさん」
普段あまり言ってくれないその言葉を聞いて、一気に体温が上がる。でもなんでそんな不安そうに言うのか、胸がきゅっとして思わず繋がったまま抱き締める。
「僕も、愛してます」
「ほんとうに?」
「本当ですよ。誰よりも大切なんです、あなたが」
おでこをこつんとあわせて真っ直ぐに目を見て伝えると、先程とは違ってふにゃりと笑った彼にほっとする。
「動きますね」
奥まで挿入したままのそれをずっと締め付けられていて、緩やかな快感も心地よかったがそろそろ耐えられなくなってきた。
「ん、そこっ、きもちい、」
「ここ、好きですよね」
彼が善がる場所を重点的に攻めれば、いつもより素直に快感に溺れていく様子にこちらも限界が迫る。
「あ、もう、いきそ、です」
「ん、僕も」
律動を速めながら前も弄ってやれば、彼はあっという間に達した。イった衝撃でぎゅっと締め付けられて慌てて自身を彼の中から引き抜くと僕も達した。緋山さんの綺麗な足に思いっきり白濁液をかけてしまい、少しの罪悪感があるものの正直興奮した。僕の自身はまた硬さを取り戻し始めていたが、緋山さんはもう意識が半分飛んでいたのでぐっと押し留めて彼の身体をティッシュで清める。
「緋山さん、せめてベッド行きましょう」
「ん」
半分寝ている状態の緋山さんを引きずってベッドに放り込み、自分はシャワーでも浴びようとベッドを離れようとしたらくい、と腕を引かれた。
「いっしょにねましょう?」
眠い目を擦りながらそう頼まれたので断れるはずもなく、大人しくベッドに潜り込んで緋山さんを抱き締めると彼は幸せそうに笑った。
「おれのこと、おいていかないで」
僕にぎゅっと抱きつきながら、懇願するように呟いた緋山さんの頭を撫でて優しく囁く。
「頼まれても離してあげられないと思います」
聞いているのかいないのか、そのまま寝落ちした緋山さんの寝顔をしばらく眺めたあと、僕もいつのまにか眠っていた。
「死にたい……」
翌朝、二日酔いでソファに沈んでいる緋山さんはどんなに酔っていても記憶はなくならないタイプのようでひたすら飲みすぎたことを後悔していた。僕としてはいつもと違って少しかわいい恋人の姿を見られたので悪くはなかった。
「でもそんなにお酒が進むなんて、先生と何話してたんですか?」
結局先生はどんなことを話したのか、そもそもなんで二人で飲みに行っていたのか教えてくれなかったので緋山さんに尋ねてみたが、緋山さんはちらりと僕の方を見たあと目を逸らした。
「内緒です」
「えぇ?なんで先生も緋山さんも教えてくれないんですか…浮気ですか……」
若干拗ねながらそう言えば勢いよく緋山さんが振り返った。
「違います!」
そこは力強く否定されて安心したようなますます怪しいような、と複雑な気持ちになる。
「あー、っと、その、先生には相談に乗ってもらってただけで」
「相談?」
そう聞き返せば、緋山さんは諦めて腹を括ったのかぼそりと呟く。
「赤峰さんのことで相談に乗ってもらってたんです」
「僕ですか?」
二人の共通の話題とすれば僕の話になることは少なからずあるだろう。問題は何の話かによるが。
「その、赤峰さんとの関係について」
「あぁ、先生知ってますからね」
いつから気付いていたのか、僕の気持ちは先生に筒抜けだったみたいで、付き合い始めた時に一応僕からは報告しておいた。だから先生は僕たちの関係について知っている。
「赤峰さんモテるから心配になって……」
「はぁ?!それ、こっちのセリフですよ!」
二日酔いの人相手に思わず大声を出してしまった。案の定、僕の声が頭に響いたのか、難しい顔をした緋山さんに謝る。
「いや、緋山さんも大概ですよ。この前も逆ナンされてたじゃないですか」
「でも赤峰さんなんて頭も良くてかっこよくてより取りみどりなのに何で俺なんかって……」
それを聞いて思わずため息を吐いてしまう。
「僕はこんなに緋山さんが好き、緋山さんが良い、緋山さん以外考えられないって言ってるのに信じられないんですね」
今度こそ拗ねながらそう捲し立てれば緋山さんは少し慌てていた。
「ちがっ、赤峰さんのことを信じられないとかじゃなくて、ただ単に俺が自信を持てないだけで……」
尻すぼみにそう呟いて、しゅんとしてしまった彼が可哀想になってしまって拗ねるのをやめる。
「じゃあ緋山さんが自信を持てるように僕が毎日緋山さんに伝えるようにしますね」
きょとんとした彼にそのまま続ける。
「緋山さんが素晴らしいと思っている僕が大好きな人はどんなに素晴らしい人かってこと」
ドヤ顔でそう言えば彼は呆れたように笑った。
「なんですかそれ」
「だってそうじゃないですか。僕が好きになったんだから緋山さんは素敵な人です」
自信を持って言い切れば隣に座っていた緋山さんがぽすりと僕の方にもたれかかってきた。
「じゃあ俺が自信を持てるまでずっと言い続けてください」
「欲しがりますね。でもいいですよ。だって事実ですから!」
顔を見合わせて思わず二人で吹き出す。
「あー、具合悪い。あんなに飲むんじゃなかった」
「先生絶対面白がってましたよ」
「今度は明墨先生のこと、酔い潰したいです」
「それは僕、戦力にならないと思うんで緋山さんが頑張ってください」
とりあえず緋山さんの二日酔いが良くなるまで、今日は二人でごろごろ過ごすことにした。