見えている世界

赤峰さんの家に居候を始めてから、毎日新たな発見がある。
「赤峰さんって、コンタクトだったんですね」
先にお風呂に入っていた赤峰さんがお風呂から上がってくると、メガネをしていたので思わず二度見してしまった。
「そうなんです。近視で」
メガネかコンタクトしてないと何も見えないんですよ、と赤峰さんはメガネを外して目を細めてこちらを見る。
「その距離だと見えないんですか?」
「緋山さんの輪郭しかわからないです」
2メートルほど離れているだけだが、この距離でも裸眼だと文字を読むのは難しいらしい。
「緋山さんは視力良いんですか?」
「特別良いわけじゃないですけど、メガネは作ったことないですね」
最近は測っていないけど、両目とも1.0はあるんじゃないだろうか。
「羨ましい……」
メガネを掛け直した赤峰さんがソファに座っていた俺の隣に来て瞳を覗き込む。
「でも、赤峰さんメガネ似合いますね」
さっきは初めてメガネをかけているのを見たから、なんだか違和感があったけど見慣れると似合っていてますます頭が良さそうに見える。
「そうですか?なんか地味になるんで嫌なんですけど」
たしかにメガネをかけていると真面目な印象になるかもしれない。
「地味ではないですけど、弁護士っぽいです」
そう返せば、なんだそれと赤峰さんは笑った。
「緋山さんは何でも似合いそうですけどね」
かけてみます?と赤峰さんが自分のメガネを外して渡してきたので、そのままかけて見るとかなり度が強くてぐにゃりと視界が歪んだ。
「うわっ、赤峰さんめちゃくちゃ視力悪いじゃないですか」
すぐに外そうとするが赤峰さんに腕を掴まれて止められる。
「待った!もうちょっとだけ……」
ぎゅっと瞑った目を薄ら開けてみると歪んだ視界でも至近距離に赤峰さんの顔があるのがわかった。
「ちょ、近いですって」
思わず仰け反るが、腕を掴まれているためあまり意味はなかった。
「だって見えないんですもん!」
ならさっさとメガネをかけてくれ、と今度こそ反対の手でメガネを外して赤峰さんに返す。しぶしぶ受け取って眼鏡を掛け直した赤峰さんがやっと掴んでいた腕を離してくれたので少し距離を取る。
「せっかく貴重な緋山さんのメガネ姿だったのに……」
「そんなに掛けて欲しいんだったら伊達メガネでも買ってきてください」
大袈裟に残念がっている赤峰さんにそう返せば、キラキラと目を輝かせた。
「買ってきたらしてくれるんですか?」
「は?」
本気で買ってきそうな勢いに押される。
「いやいや、何がそんなに楽しいんですか。俺がメガネかけてるの見たってしょうがないでしょう」
「そんなことないです!僕が助かります!」
「助かる?」
「あ、すみません。いやただメガネかけた緋山さんがあまりにもかっこよかったのでまた見たいなぁ、なんて……」
叱られた子犬のような表情でしゅん、としながらダメですか?と聞いてくるもんだから悪いことをしてる気分になってくる。
「ダメじゃないですけど……」
「やった!じゃあ今度僕が緋山さんに似合うメガネ選びますね!」
一緒に買いに行きましょう!と一人で盛り上がっている赤峰さんが何だか楽しそうだからまあいいかと、この件に関しては諦めた。

後日、店頭でああでもないこうでもないと俺に様々なフレームのメガネをかけさせては悩みまくる赤峰さんに付き合わされて、あの日安請け合いしたことを少し後悔した。