「もうそんな時期かー」
テレビを見ていた赤峰さんがそう呟いたので読んでいた本から顔を上げると月見バーガーのCMが流れていた。
「まだ暑いのにもう月見なんですね」
まだまだ暑さが残る9月だが、今年も月見と称していろんな商品が出るのだろう。
「毎年なんだかんだ食べちゃうんですよね」
「今日の夜これにします?」
CMを見ていたら自分も食べたくなってきた。
「そうしましょう」
今日は一日家にいて二人とも部屋着のままゴロゴロしていた。今更外出する気は毛頭ないのか赤峰さんはデリバリーのアプリを早速開いている。
「どの月見にしますか?」
隣に座る赤峰さんに寄りかかって画面を覗き込む。今年は3種類みたいだ。
「うーん…チーズ月見で」
少しだけ悩んで無難なそれを選ぶ。
「僕はどれにしようかなー」
赤峰さんも少し悩んだあと、通常の卵に加えてスクランブルエッグ風の卵も挟まれている今年の新作を選んでいた。
「冒険しますね」
「そうですか?普通に美味しそうですけど」
セットのドリンクを選んで赤峰さんはちゃっかり月見パイもカートに追加していた。
「緋山さんも食べます?」
「いや俺はいいです」
甘党の赤峰さんとは違って特別好きなわけではないのでパイは遠慮しておいた。そのまま注文を確定すると混み合っているのか配達予定は40分後となっていた。
「すぐそこなのに意外とかかりますね」
「俺たちと同じ考えの人がたくさんいるんじゃないですか?」
寄りかかった体勢のまま読書を再開すると赤峰さんの手がするりと髪を撫でた。
「色抜けてきましたね」
「プリンになる前に染めに行かないと」
俺は別に黒髪でも構わないのだが赤峰さんが明るい髪の方が好みらしく、リクエストに答えて毎度髪を染めている。さすがに金髪はお断りだが、事あるごとにまた金髪にしないのかと赤峰さんは聞いてくる。
「次はちょっと暗くします」
「え?なんでですか」
「秋だし落ち着いた色にしようかと」
なんとなく明るめの色は夏の気分だ。
「えー…まあでもたまにはいいか」
俺の髪なのに赤峰さんが不服そうだ。そのまま髪を撫でていた指が首元を掠めて思わずくすぐったさにびくりと反応してしまう。
「ん、くすぐったいです」
「緋山さん、首弱いですもんね」
ここも、と言いながら耳元に息を吹きかけられてびくりと身体を揺らす。
「っ、もうやめてくださいよ」
ぱたんと本を閉じて、その本で赤峰さんの顔を押しやる。しかしその本もすぐに没収されてしまった。俺から奪った本をテーブルに置いて、赤峰さんが首元にかぷりと噛み付く。
「あ、ちょっと」
甘噛みしてすぐに同じところを舐められる。
「ん、」
「口開けて」
顔を覗き込まれて今度はキスをされる。言われるがまま薄ら開けた唇の隙間から熱い舌が侵入してきた。後頭部に添えられた手で逃がさないとばかりに引き寄せられて息を吐く間もないような口付けを贈られる。二人の唾液が混ざり合い、飲みきれなかったそれが俺の唇から溢れて首筋を伝った。
「っはぁ、は、」
ようやく解放されて息を整えていると、赤峰さんの舌が俺の首筋を伝った唾液を舐めとった。そのまま上目遣いで俺を見上げた視線が熱を孕んでいてどきりとする。中途半端な刺激が物足りなくて、流されるまま彼の背中に腕を回そうとした瞬間ピンポーンとインターホンが鳴った。
「あれ」
早いな、何て呟きながらあっさり離れていってしまった彼についていけずソファの上で置いてけぼりになる。熱が集まりかけた自身を落ち着けるために深呼吸したあと、その気にさせておいてあっさり手を引いた赤峰さんに少しイラッとしながら髪をぐしゃりとかき混ぜる。ため息を一つ溢してソファから立ち上がると届いた月見バーガーを抱えた赤峰さんが戻ってきた。
「思ったより早かったですね!」
わくわくとした表情で、完全に気持ちが月見バーガーに向かってる赤峰さんにまたため息が出る。
「そうですね。早く食べましょう」
諦めて食卓について、二人で今年の月見バーガーにかぶりつく。
「ん!これ美味しいですよ、ふわとろ!」
まあこんなもんだよなと思いながら食べていると向かいの赤峰さんが目を輝かせて今年の新作を食べていたので思わず笑ってしまった。ここまで嬉しそうだとさっきのことも許してしまいそうだ。
「そんなに美味しいんですか?」
「はい!一口食べます?」
そう言って自分のバーガーを差し出す赤峰さんの口元に彼曰くふわとろな卵が少しついていたので、テーブルに手をついて身を乗り出しそれをぺろりと舐める。
「へ、」
固まった赤峰さんの手を掴んでバーガーにも一口かぶりつく。
「ごちそうさまです」
ぽかんとした表情にしてやったりと満足する。
「〜っ、ずるいですよ緋山さん!」
先程までもっとすごいキスをしてきたくせに、これくらいで顔を赤らめている彼が可愛く見えてしまうあたり俺も相当重症だ。
「さっきの仕返しです」
「もう!あとで覚悟しておいてくださいね!」
ぷりぷりと怒りながら月見バーガーにかぶりついている彼に視線を送りながら、望むところだとテーブルの下で彼の足の甲を爪先でするりと撫でた。