透き通る赤

嫌な夢を見た。地獄のような暗闇に飲み込まれていく夢。暗闇に飲み込まれながら一筋の光に手を伸ばすがそれも消えて正真正銘、真っ暗闇に一人取り残された。そこで目が覚めて、勢いよく起き上がるとびっしょりと寝汗をかいていて気持ち悪い。
それでも夢でよかった。枕元の時計を見るとまだ寝てから一時間ほどしか経っていなかった。
喉がカラカラで水を飲もうとベッドから出る。
リビングへ行くとダイニングテーブルで赤峰さんが仕事をしていた。
「どうしたんですか?」
読んでいた資料から顔を上げた赤峰さんが俺に気付く。今日は眠いから先に寝ると言ったのに戻ってきたから少し不思議そうだ。
「喉が渇いて」
悪夢で目が覚めたなんて言ったら優しい彼は心配する。仕事の邪魔をしたくなくて無難な答えを返して台所へ向かう。水をコップ一杯飲んで少し落ち着いた。でもこのまますぐ寝たらまた悪夢を見てしまいそうな気がして、仕事をする赤峰さんの向かい側に座った。
「一緒に寝たいんですか?もうちょっとかかりそうですよ」
冗談っぽく言った赤峰さんが俺の顔を見てぎょっとする。
「ひどい顔してますよ。どうしたんですか」
そんなに顔に出ていただろうか。思わず頬に手を当ててしまう。結局心配をかけてしまった。
「いや、ちょっと嫌な夢を見て……」
赤峰さんは何か考えているような素振りをしたあと、何か思いついたのか立ち上がった。
「そういえばこの間、良い物買ったんですよ」
そのまま台所へ向かって戸棚をがさごそと漁っている。立ち上がって様子を見に行くと、目当てのものを見つけたのかきらきらとした笑顔で丸い缶を見せてきた。
「これ!お茶なんですけど、カフェインレスなんで寝る前に良いと思います」
おしゃれな缶に入っているのは茶葉らしい。そういうことなら、とお湯を沸かそうとしたが赤峰さんに背中を押されて台所を追い出される。
「僕が煎れるので緋山さんは座っててください!」
何やら張り切っている彼に任せて大人しく台所から出てリビングのソファに座る。すっかり目が覚めてしまった。
少しして、赤峰さんが透明なティーカップにお茶を煎れてきてくれた。
「どうぞ」
「良い香りですね、それに綺麗な色」
「そうなんですよ!僕たちの色です」
鮮やかな赤が透明なカップによく映える。一口飲むと優雅な香りの中に少しだけ爽やかな酸味があって気分がすっきりとする。
「ん、おいしいです。飲みやすいですね」
「本当ですか?一口ください」
茶葉で煎れていたから自分の分も煎れてくればいいのに、と一瞬思ったが煎れてもらった手前文句は言えないので大人しくカップを手渡す。
「美味しいですね。完全に色だけで買ったので良かったです」
聞けば時間潰しにたまたま入った専門店で見つけたらしい。
「普段コーヒー飲むことが多いんで新鮮です」
俺も赤峰さんも朝や仕事中など、基本コーヒーを飲むことが多いからコーヒーは常備しているが紅茶は久しぶりに飲んだ。カフェインレスなら寝る前に飲んでも問題ないしいいかもしれない。
「すごい種類あったんで今度一緒に見に行きましょ」
「いいですね」
にこにことご機嫌そうな赤峰さんに頷く。
「すみません、仕事の邪魔しちゃいました」
「何言ってるんですか。邪魔されたなんて思ってません。それにこういう時はもっと甘えてくれてもいいんですよ」
少し唇を尖らせて不満そうな赤峰さんに肩の力が抜ける。
「ふふ、じゃあ遠慮なく」
隣に座っている赤峰さんにそっと寄り掛かると優しく頭を撫でられた。これじゃあどっちが年上かわからないな。
「僕は緋山さんが幸せに笑ってくれていたら、それだけでいいんです」
優しい手と声、それに彼が煎れてくれたお茶。全てが俺の心を落ち着かせる。
「なんか眠くなってきました」
「じゃあベッド行きましょう」
まだ少し残っていたお茶を飲み干すと、赤峰さんがカップを取り上げて台所へ片付けた。
そのまま俺の手を引いて寝室まで連れて行ってくれる。
ベッドに潜り込んだ俺の髪を赤峰さんがするりと撫でた。
「おやすみなさい。きっともう悪い夢は見ませんよ」
優しい彼の声に安心して目を閉じるとまるでおまじないのように瞼にそっとキスが落とされる。
そのままあっという間に眠りに落ちて、彼の言う通り朝までぐっすりと眠ることができた。
朝起きて、隣で眠る彼の寝顔を見てどうしようもなく幸せを感じる。
こんな毎日がずっと続けばいいのに、そう願いながら赤峰さんの頬にそっとキスした。