明墨法律事務所へ行った帰り、最寄駅へ着くと走り回っていた子供が俺の足にぶつかってきた。
「おっと」
転ばないように抱き留めるとその子供がかぼちゃの被り物をしているのに気付いた。
「大丈夫?」
隣にいた赤峰さんがその男の子に問いかけると元気よく頷いて目をキラキラとさせた。
「とりっくおあとりーと!」
「「え?」」
思わず漏らした声が赤峰さんとハモる。二人で固まっていると母親らしき人が慌ててこちらへ走ってきた。
「すみません…!ほら行くよ」
「えー!おかしもらってない!」
俺の足にしがみついたままイヤイヤと首を振る子供にどうしたものかと困っていると赤峰さんが自分のカバンを漁っていた。
「んー、こんなのしかないけど…これで勘弁してね」
赤峰さんは個包装の飴を取り出すと男の子に渡した。男の子は嬉しそうにそれを受け取って母親の手を取った。お兄ちゃんたちバイバイ、と手を振られたので二人で振り返す。
「そういえばハロウィンなんですね」
「全然馴染みがないので忘れてました」
「俺なにもお菓子持ってないから焦りました」
二人並んで歩きながらすれ違う人々を見てみると、お揃いのカチューシャをつけた女子高生や派手な化粧をした若者が楽しそうにどこかへ向かっている。
「うっかり渋谷とか行かなくてよかったです」
俺と同じくハロウィンには馴染みがないらしい赤峰さんは何かを思いついたように足を止めた。何かを企んでいるような表情でこちらを見た彼に嫌な予感がする。
「緋山さん、トリックオアトリート!」
「…さっきお菓子持ってないって言いましたよね」
「ふふふ、じゃあいたずらですね」
先ほどとは打って変わって軽い足取りで家に向かう彼にげんなりとする。
「いたずらって、何するつもりですか」
「うーん外じゃ言えないようなこと?」
振り返ってそう言った彼の表情にげんなりとする。
「俺、寝不足だから今日は早く寝たいんですけど」
「え、緋山さん何想像したんですか?」
えっち、と戯けた赤峰さんにイラッとして肩を軽く殴る。
「いて。暴力反対です」
「うるさいですよ」
一年前は彼とこんなふうにふざけあっているなんて想像もつかなかった。近くなった距離感に慣れてきて心地よさを感じる。
「スーパー寄って帰りましょ。今夜はハロウィンパーティーで」
「ハロウィンパーティーって何するんですか?」
「何するんだろう…今から仮装はちょっと嫌だし」
「仕方ないから赤峰さんの好きなもの作ってあげますよ」
「やった!…でも緋山さんいつも作ってくれるからなー」
真剣に今夜の献立リクエストを考え始めた赤峰さんの手を夜に紛れてそっと攫った。彼は一瞬驚いた顔をしたあと、すぐに嬉しそうな表情になってぎゅっと握り返される。
日が短くなって憂鬱ささえ感じる今日この頃だから、これくらいの幸せは許されるだろう。