きのこたけのこ論争

今日は明墨法律事務所で打合せの予定があり自宅から事務所へ向かうと足を踏み入れた瞬間、先に明墨法律事務所へ着いていた赤峰さんがこちらを勢いよく振り返った。赤峰さん、白木さん、紫ノ宮さんでなにやらデスクを囲んでいる。
「緋山さん!ちょうどいいところに!」
「えっ、なんですか」
駆け寄ってきた赤峰さんに手を引かれてみなさんが囲んでいるデスクまで行くとお菓子がいくつかデスクの上に広げられていた。
「緋山さんはどっち派ですか?」
状況についていけていない俺の前に、赤峰さんが二つのお菓子をずいと掲げている。よく見てみるときのことたけのこがデザインされたチョコレート菓子のパッケージにそういうことかと納得する。
「きのこですか?たけのこですか?」
なかなか答えない俺に赤峰さんがしつこく問いかけてくる。この人たちはいったいなにをしてるんだか。
「えーと、どっちでもいいですけど」
「どっちかというと!」
「…きのこですかね」
きのこを模したタイプのほうがチョコレートの塊を食べているような気がして満足感があるような気がする。とはいえ滅多に食べることもなくなったが。
「やった!これで同率ですよ!」
「え〜たけのこでしょ〜」
「もういいでしょう。私、外出してきます」
ガッツポーズをする赤峰さんはきのこ派ということなんだろう。がっかりしたような白木さんと呆れて事務所を出て行った紫ノ宮さんはたけのこ派らしい。
「緋山さんこれ一緒に食べましょう」
「あ、はい」
劣勢が覆って嬉しいのかにこにこと、自分の隣の椅子をすすめてくる赤峰さんに別にいらないとも言えず、大人しく隣に座ってきのこの形をしたそれを一つ手に取る。
「たまに食べるとおいしいですね」
「ですよね!やっぱきのこの方がチョコ食べてるって感じがします」
「え〜でも世間的にはたけのこ派が多いはずだよ」
「我が家はきのこ派で一致ということで。緋山さんと戦争にならなくてよかった〜」
お菓子一つでなに言ってるんだかと思いつつ、俺はそれよりも赤峰さんが俺のことを家族と扱ってくれている物言いに嬉しさを感じてしまった。
「これで明墨先生と青山さんがたけのこ派だったら明墨法律事務所VS赤峰法律事務所で全面戦争だからね!」
「望むところです!」
楽しそうに冗談を言いながら白木さんはマグカップを持って席を立った。
せっかくなのでもう一つ食べようと、何の気なしに袋に手を突っ込むと事務所が暖かすぎたのかすこしだけ溶けたチョコレートが手についてしまった。
「あ、すみません赤峰さんティッシュください」
慌ててチョコを口の中に放り込んで、私物がある程度置きっぱなしの赤峰さんのデスクに手を伸ばす。
チョコで汚れている俺の指先を見て、ティッシュを取ってくれようとした赤峰さんだが一瞬何かを考えたと思ったら俺の手を掴んだ。
「え」
「ごちそうさまです」
赤い舌が俺の指先についたチョコレートを攫っていく。ついでにちゅ、と指先に口付けられて慌てて手を引っ込めた。
「っちょ、なにするんですか!」
「へへ、つい」
自分のところの事務所で二人きりならともかく人の事務所で白木さんもいるというのに。
「はいはいそこの二人、いちゃつくなら帰ってからにしてねー」
しかもばっちり見られていた。思わず顔に熱が集まる。
「すみませーん」
全然反省してなさそうな赤峰さんの足を軽く蹴る。
「いて、なにも蹴らなくても」
「人前でやめてくださいっていつも言ってるじゃないですか」
「二人きりならいいんですか?」
「うっ、それは…」
「だからいちゃつくな!」
「「すみません」」
先ほどよりも強めに注意されて大人しく仕事を始める。
その後、先生と青山さんが外出から戻ってきたがこの話を蒸し返す気になれず結局先生と青山さんがどっち派なのかはわからずじまいだった。