澄んだ朝

12月に入り急に気温が下がった今日この頃。
日課となっている愛犬・モカとの散歩に今日は赤峰さんも行くというので首輪につけたリードを赤峰さんに渡した。
職場が自宅一階ということもあり、朝は比較的余裕のある我が家なので二人で散歩に行ってもとくに問題ないだろう。
「あっ、モカちょっと待ってってば」
早く外へ行きたいと階段を駆け下りていくモカに引っ張られて赤峰さんも下に降りていく。玄関に赤峰さんのマフラーと手袋が置きっぱなしだったのでそれを手に持って彼らを追いかけた。
しかしドアを開けると勢いよく外へ出て行ったはずのモカが室内へ逆戻りしてくる。
「あれ、どうしたモカ。行くよ」
俺の足に擦り寄るモカの体を押すが外に出たがらない。
「さむっ!今日外寒すぎですよ」
赤峰さんも戻ってきて俺の手からマフラーと手袋を回収し、きっちり装着していた。
「そっか、モカも寒くてびっくりしたか〜でも今行かないと夜まで行けないよ」
しゃがんでモカを撫でて宥めてやると渋々といった風に外へと向かった。
「犬は寒さに強いと思ってました」
「そうですね。というか今までモカも拒否したことなかったし」
「もしかして僕がリード持ってるから…!」
「それはあるかもしれませんね。というか二人揃ってが珍しいから甘えてるのかも」
歩きながらちらちらと俺たちの方を振り向くモカは心なしかいつもより落ち着きがない。最近は仕事が忙しくて交代で散歩に行くことが多かったから久しぶりに揃っての散歩でモカも嬉しいのかもしれない。
「せっかくだし公園で遊んでから帰りますか」
「えー寒いですよ」
「赤峰さんもモカと一緒に走ってください。温まりますよ」
「どういうことですかそれ…」
散歩の時に持ってくるバッグの中にはボールやフリスビーも入っているから準備はバッチリだ。歩いているうちに寒さも忘れたのかモカの足取りは軽い。

ワン!
公園に着いて早速ボールを投げるとモカが勢いよくボールを拾いに走っていった。
「モカ!返して!」
ボール投げ担当の赤峰さんがモカを呼び戻そうとしているがそんな赤峰さんをかわすようにモカが走り回る。一頻りモカに翻弄されて走り回った赤峰さんが俺のところに戻ってくる。
「はぁ、はぁ、緋山さん、これ、持っててください」
息を切らしながら赤峰さんが手渡してきたマフラーを受け取ると、モカが俺の足元に突撃してきた。そのままボールを渡してくれたのでそれをまた遠くに投げる。
「あっ、ちょっとモカ!なんで緋山さんには渡すのさ〜」
口では文句を言いながらも赤峰さんは楽しそうにモカを追いかけていく。寝起きが悪いわりに起きてしまえば朝から走り回るほど元気なのだから赤峰さんの生態もよくわからない。
そんな一人と一匹を黙って見ていると俺の方が寒くなってきた。普段歩いていると暑いからとマフラーも手袋も持って来なかったので赤峰さんのマフラーを借りることにする。首元に巻きつけるとふわりと赤峰さんの香水が香った。

かじかむ手に息を吹きかけていると赤峰さんがモカのリードを引いて戻ってきた。
「すみません!夢中になりすぎました」
寒かったですよね、と赤峰さんがもこもこの手袋をした手で俺の手を包み込んでくれる。走り回っていた赤峰さんの手が温かいからか、手袋越しでも温かさを感じる。
「ありがとうございます。すみません、マフラー勝手に借りました」
「僕暑いんで、使ってください」
俺たちがくっついているとモカも足元に寄ってきて広い公園で何故か固まっている自分たちが何だか面白くなってきた。
「そろそろ帰りますか」
赤峰さんからモカのリードを受け取って帰路に着く。すると赤峰さんが手袋を片方差し出してきた。それを受け取りつつどういうことだろうと首を傾げるとモカのリードを持っていない方の手を取られた。
「これでどっちも温かいでしょう?」
そういうことかと赤峰さんにいったんリードを預けて手袋をする。赤峰さんの体温でほんのり温かい手袋のおかげで俺の手もすぐに温まった。
もちろん赤峰さんと繋いだ方の手も。