とある依頼人の目撃証言

私はインターネットの動画配信サービスで配信活動等をして生活しているストリーマーである。
もともとは会社員をしながら活動していたが、ありがたいことに私の活動をバックアップしてくれる企業が見つかり、見てくれる人も増えてきたので数年前に会社を辞めて今はそれ一本で生活している。
そんな私の悩みはネット上での誹謗中傷だ。ある程度は仕方がないと諦めていたが最近は周りにも迷惑をかけ始めている為、本格的に手を打とうと考えた。そうなると個人での対応には限界があるので弁護士の先生にお願いをしなければならないが、当然弁護士の知り合いなどいない。そんな時にたまたまテレビで見かけたのが赤峰先生だった。
夕方の情報番組でちょうどネット上のトラブルについてコメントをしていたのが赤峰先生で、その後マネージャーさんを通じてすぐに連絡をしてもらった。テレビにも出ているくらいだから依頼するのは難しいだろう、とダメ元だったが意外にもあっさりと話が進んだ。

「これはひどいですね」
「はい…最近どんどん過激になっていって」
最初の打合せの日、私はマネージャーさんと一緒に赤峰法律事務所を訪れた。あらかじめ用意しておいたこれまでの誹謗中傷の内容がまとめられた資料を渡すとその内容に先生は眉間に皺を寄せた。
「安心してください。すぐに解決させて頂きますので」
にこりと笑った先生にこれまでの経緯について詳しく聞かれる。それに答えていると事務所にいたもう一人の男性がお茶を持ってきてくれた。
「お茶どうぞ」
「ありがとうございます」
赤峰先生もイケメンだがこの人も恐ろしいほど顔が整っている。まるで芸能人だ。私の好みはどちらかというと先生の方だけど。

「それではよろしくお願いします」
「はい。今後の流れについて、決まったらまた連絡しますね」
今日打合せした内容をもとに誹謗中傷をしていた人たちを特定して、どのように訴えていくか先生が作戦を考えてくれることになってお開きになった。
「先生からのオーケーが出たら、会社からも厳重に対処するって発表しますね」
「はい、ありがとうございます」
マネージャーさんもそう言ってくれたので早く解決するといいなと思いながら駅で別れた。

「それではこのような流れで進めていきましょう」
「はい」
何度目かの打合せで誹謗中傷を行っていた人たちも特定できたことを知らされ、いよいよ裁判かと意気込んでいたけどどうやら裁判まで行くことは稀らしい。
「おそらく裁判になる前に示談となるかと思いますが、示談金をどこまで上げられるか頑張りますので」
「たくさん貰えたら先生たちも一緒に打上げしましょう!」
赤峰先生とアシスタント(パラリーガルというらしい)の緋山さんに提案してみる。
「あはは、いいですね。でも僕たちはきちんと報酬を頂くことになっているのでお二人でパーッと飲んできてください」
あわよくばイケメン二人と食事に…!と思ったがその期待はあえなく散った。

「問題なく進みそうで良かったです」
「そうですね…って私忘れ物しちゃったみたいです」
事務所を出て、マネージャーさんと並んで数分歩いたところで忘れ物に気付く。
「取りに行ってくるので先帰っててください」
「気を付けてくださいね」
忘れたのはペン一本なので困らないと言えば困らないが、次に行くのは来週なのでせっかく気付いたことだし取りに行こうと来た道を戻る。
事務所のドアノブに触れようとしたところで中から話し声が聞こえてきた。別の依頼者が来ていたら入らない方がいいかな、そう思ってドアの一部分、ガラスになっているところから中を覗き込む。
「あの人、絶対緋山さんに気がありますって」
「ん、ちょっと事務所ですよ」
…今キスした!?
赤峰先生がこちらに背を向けていてその影に緋山さんが重なった。思わず覗き込んでいた体勢からのけぞってドアから離れる。しかし二人から目を逸らすことができなかった。
「どちらかというと赤峰さんがお気に入りだと思いますが」
そう言いながら緋山さんは先生の背中に腕を回した。
その瞬間、ちらりと緋山さんの顔が見えて目が合ってしまった。一瞬驚いたように目を見開いたあと、緋山さんはにっこりと微笑んで赤峰先生の頬に唇を寄せ、見せつけるようにキスをした。
これ以上はまずいと脳内に警鐘が鳴り響いたので音を立てず速やかにその場を後にする。

あの二人そういう関係だったのか。先生の方が独占欲強いと見せかけて緋山さんの方がクソデカ感情抱いているやつ…アリだな。そんなことを思いつつも、落ち着かない気持ちをどうにかするためとりあえずカフェに入った。

一週間後、打合せで事務所に向かうと緋山さんにペンを手渡された。
「これ、先週忘れてましたよ」
そう言って微笑んでいるが目が笑っていない。
「ひっ、ありがとうございます…全然気付かなかったです!」
私は何も見ていない、その姿勢を貫いてその日は打合せを終えた。

ちなみにその後すぐに示談はまとまって、問題は無事解決した。
イケメン二人の未来に幸あれ、そう心の中で願いながら完全にモブの私は退散した。