リビングで年越し蕎麦を食べながらテレビで放送されているカウントダウン番組を見る。
今年は本当に色々なことがあった。
まさか赤峰さんと再会して一緒に仕事をし、同じ家に住み、恋人という関係になるとは。
去年の自分に言っても信じないだろう。
「今年も一年あっという間でした」
俺の作った年越し蕎麦を食べながら赤峰さんが呟いた。
「何だかあまり年末って感じもしなかったですしね」
「今やっと年末を感じてます」
無理やり仕事を納めて、家の大掃除をしてと忙しなくしていたからようやく落ち着いたのが大晦日の今日だ。
そんな大晦日もあと少しで、年越しまで一時間を切っている。
「初詣でも行きます?」
蕎麦を食べ終えた赤峰さんがつゆの残ったどんぶりを片付けながらこちらを振り返った。
「初詣?」
「そうです。といっても近所の神社ですけど」
神社なんて近くにあったっけと考えていると赤峰さんが隣に戻ってきた。
「小さい神社だから混んでないと思いますよ」
それならと頷く。混んでいるところは賽銭を投げるまで行列だからそれだけで疲れてしまいそうだ。
「年明けたら行きます?」
「いいですね。夜中に外出るの何だかわくわくします」
「子供じゃないんですから」
目を輝かせる赤峰さんに苦笑する。普段は弁護士としてキリッとしているのに時々こうやって少年っぽい表情を見せるから読めない人だ。
「初詣なんて久しぶりに行きます。いつぶりだろう」
「緋山さん初詣行かない派なんですか?」
「行かない派というか…学生の時は友達と行ったりしましたけど、卒業してからはたぶん行ってないですね」
就活に失敗した後ろめたさから実家にも帰っていなかったし、あそこに就職してからは年末まで仕事が忙しくて、普段休めないぶん身体を休めるために寝ていたら正月休みなんてあっという間に過ぎていた。
「そっかー。僕は明墨法律事務所の皆さんと行くことが多かったですね。その前も一人で行ってましたけど」
「えらいですね」
「いや、正月ってとくにすることないから暇つぶしに行ってただけですよ」
それでも外に出ようとなるだけえらいと思う。自分も蕎麦を食べ終えて、食器を片付ける。一瞬洗い物は明日にしようかと思ったけど、何となく年明けに持ち越すのは良くないような気がしてそのままささっと洗い物も済ませてしまう。
「洗い物、ありがとうございます」
「いえ。これですっきり新年を迎えられますね」
二人並んでソファに座ってテレビを見る。なんてことないこの時間が幸せというものなのだろう。
あっという間に新年が近づき、テレビの向こうでカウントダウンが始まる。
「今年はお世話になりました」
「ふふ、それ俺のセリフです。赤峰さんには足向けて寝られないくらいお世話になりました」
畏まって年末の挨拶をしてくる赤峰さんにそう返す。冗談っぽく言ったけど全部本当のことだ。
赤峰さんがあの日、迎えに来てくれなかったら俺はこんな風に暖かいところで年越しを迎えるなんてできなかったかもしれない。
新年まで10秒を切った。二人でカウントダウンを見つめる。
0が来て新年が明けた瞬間、赤峰さんにキスをされた。軽く触れて離れていく唇。
「あけましておめでとうございます。今年も僕の隣にいてくださいね」
「…当たり前じゃないですか。今年もよろしくお願いします」
至近距離で目があって、お互い笑ってしまう。
「よし!じゃあ初詣行きますか!」
「そうですね」
寒そうだから暖かくしていかないと。立ち上がった赤峰さんのあとを追いかける。
クリスマスプレゼントに貰った手袋も忘れずに持って玄関へ向かった。
「こんなところに神社があったんですね」
「穴場なんですよ、ここ」
徒歩10分もしないところに小さな神社があった。年が明けてすぐに出てきたからか、俺たち以外に参拝者もいない。
「張り切って早く来過ぎちゃいましたかね」
「年は明けたんですから、いいんじゃないですか」
賽銭箱に小銭を投げて手を合わせる。作法は赤峰さんのを見様見真似だ。
ー俺も赤峰さんもモカも健康でいられますように。
家族の健康を祈って目を開けると赤峰さんはまだ目を閉じて手を合わせていた。
少しして赤峰さんも顔を上げる。
「じゃあ行きましょうか」
赤峰さんの言葉に頷いて石段を降りる。
「何お願いしたんですか?」
妙に長かったのが気になって問いかけると前を歩いていた赤峰さんが振り返った。
「緋山さんが幸せでありますようにって」
そう言った赤峰さんの表情があまりにも優しくて、思わず立ち止まる。
そんな俺の頬に手を添えると赤峰さんは今年二度目のキスで俺の唇を塞いだ。
「ちょ、外ですよ」
「誰も見てませんよ。あ、神様は見てたかも」
慌てる俺に赤峰さんは呑気に笑った。やられっぱなしは癪なので彼の腕を引いて、今度は俺からキスをする。
少し驚いた表情の赤峰さんにしてやったりと満足する。
「赤峰さんの願いは、赤峰さんが俺の隣にいてくれたら叶うと思いますよ」
言ってから恥ずかしくなってきて、赤くなったであろう顔を隠すため先に歩き出す。
少しして追いかけてきた赤峰さんに片方の手を取られた。
「じゃあ緋山さんが嫌って言っても隣にいることにします」
ぎゅ、と俺の手を握り赤峰さんは嬉しそうに笑った。
この笑顔を今年も隣で見ていたい。
初詣では願い損ねたけど、そう願わずにはいられなかった。