雨音は止む(R-18)

「すみません、今日の午後早上がりしますね」
パソコンに向かって仕事をしていると赤峰さんが俺のデスクにコーヒーの入ったマグカップを置きながらそう言った。淹れてくれたコーヒーにお礼を言って頷く。
「わかりました」
なんやかんや仕事ばかりしている赤峰さんだから珍しいなと思いつつもとくに深く聞くことはしなかった。直近で裁判を控えているわけでもないし、とくに問題ないだろう。たまには休んでもらわないとな、と思っていたのに赤峰さんは時間が来ると自宅へ戻るわけではなく出掛けて行った。
なんだ、単に用事があっただけかと拍子抜けしながら一人で事務仕事をこなす。一人だと事務所が静かすぎるのでラジオをかけると天気予報のコーナーで梅雨入りを知らせていた。さっきまで降っていなかったけど大丈夫だろうかと外に目をやるとどんよりと曇ってはいるが雨は降っていなかった。赤峰さんが帰ってくるまで降らないといいなと思いながら仕事を続けた。
赤峰さんはすぐに帰ってきて、俺に声だけかけてすぐに自宅へと上がって行った。事務所にいたモカも連れて行ったので俺がキーボードをかたかたとする音とラジオから流れる流行りの歌だけが事務所に響く。
あっという間に定時がきて、パソコンをシャットダウンする。今日の晩御飯は何にしようかと冷蔵庫の中身に思いを馳せながら自宅のドアを開けた瞬間、赤峰さんがバタバタと玄関まで走ってきた。
「おかえりなさい!お疲れ様です!」
にこにこと上機嫌な赤峰さんに何かいいことでもあったのだろうかと首を傾げながらただいまと返事をした。そのまま何故か手を引かれてリビングへと連れていかれる。
「どうしたんですか?」
「ふふ、すぐわかりますよ」
振り返った赤峰さんは悪戯っぽく笑った。リビングへ入ると電気が点いておらず、真っ暗だった。思わず立ち止まると赤峰さんは俺の手を離してどこかへ行ってしまった。
「赤峰さん?」
何事かと声をかけると赤峰さんはぼんやりと明かりの灯った何かを手に戻ってきた。
「ハッピバースデートゥーユー」
バースデーソングを口ずさみながら赤峰さんがゆっくり運んできたのはケーキだった。そこでようやく今日が自分の誕生日だったことを思い出す。バースデーソングを最後まで歌い終えた赤峰さんがずいと俺の目の前にろうそくのささったホールケーキを差し出した。
「ほら、ろうそく消してください」
促されて、ふぅーっと息を吹きかけろうそくの火を消す。再び真っ暗になった部屋で赤峰さんの唇が俺の頬に軽く触れた。すぐに離れていって、何事もなかったかのように電気を点けてケーキをテーブルの上に置いた赤峰さんがぱちぱちと手を叩く。
「緋山さん、お誕生日おめでとうございます!」
「ありがとうございます。びっくりしました…!」
「ふふ、サプライズ成功ですね」
テーブルの上にはケーキの他にもご馳走が並んでいた。
「すっかり忘れてました」
驚く俺に赤峰さんはやれやれとため息を吐いた。
「また忘れてるし…僕のほうが今日1日そわそわしてましたよ」
どうやら俺の誕生日を祝うために仕事を早めに切り上げてくれたらしい。
「これ、作ってくれたんですか?」
テーブルに並ぶ料理を前に尋ねてみると赤峰さんは胸を張って頷いた。
「もちろん!緋山さんの料理には負けますけど、僕なりに頑張ってみました!」
「ありがとうございます。俺の好きなものばっかりだ……」
「喜んでもらえてよかったです。ほら、冷める前に食べましょう」
赤峰さんが冷蔵庫からシャンパンを取り出してポン、と音を立てながら開けた。揃いで買ったシャンパングラスにそれを注いで乾杯する。
「改めて、お誕生日おめでとうございます!」
「ありがとうございます」
面と向かって祝われるとなんだか恥ずかしい。早速赤峰さんが作ってくれた料理に手を付ける。
「美味しい。腕上げました?」
「褒めてもこれ以上何も出ませんよ。僕が調子に乗るだけで」
「調子乗ってもいいですよ。本当に美味しい」
滅多に料理をしてくれない赤峰さんが作ってくれたという付加価値を除いてもどれも美味しかった。褒めまくると赤峰さんは珍しく照れているようだった。
「でも僕は緋山さんの料理の方が好きです」
「嬉しいです。というか誰かが自分のために作ってくれた料理っていいですよね」
俺の言葉に赤峰さんはこくりと頷いた。自分の生まれた日に大切な人とこうして食卓を囲むだなんて、人を傷つけてしまった自分がこんな幸せを得て許されるのだろうかという罪悪感は尽きない。それでも赤峰さんがこうして俺のことを想って、色々なものを与えてくれるのが嬉しかったしそれに応えたいと思っている。

バースデーケーキまで食べ終えて、シャンパンのボトルを空けた頃には若干酔っ払っていた。赤峰さんはあまり飲んでいなかったから珍しくけろっとしていて後片付けまで全てやってくれた。
「すみません、何から何まで」
「何言ってるんですか!今日の主役は緋山さんなんですから何もしなくていいんですよ」
ふわふわとして浮ついた気分のまま、赤峰さんに抱きつく。
「じゃあ今日は気持ち良くして欲しいです」
「えっ!それって…!」
珍しく俺から誘ったもんだから赤峰さんは驚いて目を見開いた。言ってから恥ずかしくなって顔が見えないように赤峰さんの肩に顔を埋める。
「だめですか」
もごもごと呟くと赤峰さんがぎゅっと抱きしめ返してくれた。
「覚悟してくださいね」
耳元でそう囁かれて期待に喉が鳴った。

「あっ、や、もっ、だめ…!早く、挿れてくださ、っあ!」
「今日は緋山さんをとことん気持ち良くさせると決めたのでまだです」
ベッドまで連れて行かれていつもより入念に後ろを解されたあと、赤峰さんは俺の感じやすいところを指で執拗に攻めた。何度も後ろだけでイって、おかしくなりそうな快感から逃げようと腰を引いたら赤峰さんに嗜められた。
「や、だって、も、イけなっ」
感じすぎて涙やら涎やらでぐちゃぐちゃの顔のまま振り返ると赤峰さんは俺の陰茎に手をかける。
「たしかにイきっぱなしですもんね。そんなにイイですか?」
「っ、やら、どっちも、またっ、ん、あぁっ!」
前を扱かれ、後ろは前立腺をぐりぐり刺激されてまた絶頂へと追いやられる。前からはもう透明な液体が少し出ただけだった。絶頂の余韻に身体を震わせていると仰向けに転がされる。
「緋山さん、気持ちいいですか?」
笑みを浮かべながら見下ろしてくる赤峰さんに一矢報いたくて彼の首に両腕を回して引き寄せる。
「は、はっ、あかみねさんの、ほしい」
わざと耳元に息を吹きかけながら囁くと赤峰さんはびくりと身体を震わせた。
「っ、そんなに煽らないでください。めちゃくちゃ我慢してるのに」
「も、我慢しなくていいです」
部屋着のスウェットを押し上げている赤峰さんのそれを服の上から弄ると赤峰さんは息を詰めた。
「…もう知りませんからね」
俺の肩をベッドに押し付けて完全に余裕のなくなった赤峰さんに後ろの穴が疼いた。服をベッドの下に投げ捨てて赤峰さんのそれをひたりと入口にあてられる。それだけで彼を飲み込もうとそこはひくついた。そのままさっきまで執拗に攻められていた箇所を彼の熱くて太い肉棒が抉った。
「〜っ!」
それだけでまたイってしまい、ナカのそれをさらに締め付けてしまう。なのに赤峰さんはお構いなしで律動を続けるもんだからイきっぱなしで目の前がちかちかする。
「あぁっ!や!うそ、またっ、んっ〜〜〜!」
「く、」
「だめ、おかしくな、おねがっ」
「は、いいですよ」
どんな緋山さんでも愛してます。
腰を打ちつける動きの激しさとは裏腹に優しく微笑んだ赤峰さんにきゅうっと胸を締め付けられる。身体も心も満たされて、激しい快感に俺は意識を飛ばした。

「ん、あ、俺」
「すみません、やりすぎました」
目を覚ますと腕枕をしてくれていた赤峰さんが申し訳なさそうな顔をした。全裸だが赤峰さんが後始末をしてくれたのかさっぱりしている。まだ気怠くてそのまままた目を閉じると優しく頬を撫でられた。
「もう日付回っちゃいましたけど、改めてお誕生日おめでとうございます」
「ん、ありがと、ございます」
半分寝ながら返事をすると赤峰さんがくすくすと笑った。
「緋山さん、生まれてきてくれてありがとう」
優しい声に包まれながら、心地良い眠気に身を任せた。