究極の愛(R-18)

「赤峰先生、これもしよかったらどうぞ」

「えっ、ありがとうございます!すみません、気を遣っていただいて」

まただ。今週もう何度目かになる光景にお茶を煎れながら遠い目になる。

バレンタインを目前に控えた今週、赤峰さんは依頼人からそれはもうチョコを貰いまくっていた。

付き合いの長い依頼人は左手薬指にはめられている揃いの指輪から俺たちの関係を察し、二人で食べてと言ってくれるけど最近は新規の依頼人も多い。

さすがに本命チョコではないだろうけど、大量にチョコをもらっている赤峰さんを見ると俺からのチョコはいらないんじゃないかとモヤモヤしてしまう。

「それでは来週また」

打ち合わせを終えて依頼人を見送る。依頼人の姿が見えなくなったあと、テーブルの上にのったチョコを見ながら赤峰さんが困った顔をした。

「甘党だって言わないほうがいいですかね」

「もう遅い気がしますが……」

出したお茶を片付けてコーヒーを淹れる。赤峰さんの分も淹れてマグカップをデスクに置く。赤峰さんはデスクに積まれたチョコの賞味期限を確認していた。

「今日はこれにしましょう」

「じゃあ俺は一個だけ」

「そう言わずに」

「だって赤峰さん宛じゃないですかそれ」

「そうでしたっけ?まあでももう僕のものなんで。僕がいいって言ってるからいいんです!」

もはや誰から貰ったチョコなのかも覚えていないらしい。俺ばっかりが気にしているみたいでなんだかなぁと思いながら口に入れたチョコは甘ったるくて、苦いコーヒーでそれを流し込んだ。



バレンタイン当日、赤峰さんは打ち合わせで外出してしまったので事務所を閉めて二階の自宅で事務仕事をしていたがなんだか集中できない。

急ぎの仕事はとくになかったので愛犬のモカとごろごろしてみたりもしてみたが眠いわけではないので昼寝もできない。

ソファに寝転がってぼんやりと天井を見つめる。

結局赤峰さんにチョコは買わなかった。あんなに貰っているんだからいらないだろうと思ったのだが、いざ当日になると何もないのも申し訳なくなってくる。

せめて何かお菓子でも作るかと思い立ってスマホでレシピを調べる。

どうせならチョコ以外がいいだろうとバレンタインに贈るお菓子の意味も一緒に調べて、簡単に作れそうなものを選んで早速作業に取り掛かった。



「ただいまー」

ちょうど作っていたお菓子が焼き上がったところで赤峰さんが帰ってきた。

「おかえりなさい」

「えっ!マフィンだ!」

部屋中に甘い匂いが漂っていたからすぐに気がついた赤峰さんが目を輝かせる。

「バレンタインのお菓子です。チョコじゃないほうがいいかと思って」

「嬉しいです!焼きたて食べたい!」

「コーヒーも淹れますね。手洗ってきてください」

「はーい!あ、でもその前に」

赤峰さんががさごそと手に持っていた物の紙を剥ぐ。

「ハッピーバレンタイン!今年もお花にしてみました!」

中からは黄色の花束が現れて、にこにこと満面の笑みの赤峰さんにそれを手渡される。

「ガーベラ?でしたっけ」

「そうです!かわいいでしょう!」

得意げな赤峰さんに思わず笑ってしまう。黄色のガーベラの花束は生き生きとしていて見ているだけで元気がもらえそうだ。

「ありがとうございます。早速飾りますね」

「そうしてください!」

花瓶を取り出してガーベラを飾っていると、赤峰さんが着替えて戻ってきた。

マフィンの味見をしていないから若干心配だが、失敗するようなものでもないし大丈夫だろうと思い直す。

「どうぞ」

「いただきます!」

形の良い物を皿にのせて手渡すとすぐに赤峰さんはそれにかぶりついた。

「ん!おいひいです!」

「よかったです。俺も食べようかな」

適当に一つ取って自分でも食べてみる。焼きたてなのもあり悪くない。

「もう一個食べていいですか?」

「えっ、もう食べたんですか?いいですけど夕飯入らなくなりますよ」

ぺろりとマフィンも一個すぐに平らげた赤峰さんに強請られて、焼き上がったマフィンを並べている皿ごと持ってくる。

「だって今年はもらえないかと思ってたから嬉しくて!」

もちろん味も最高です!と二個目のマフィンを食べながら言った赤峰さん。今朝まで何もあげないつもりでいたことが気まずくて思わず頬を掻く。

「あげないわけないじゃないですか」

赤峰さんは疑わしげな視線を向けてきたが適当に誤魔化しておいた。



寝る前に飾ってあるガーベラの写真をスマホで撮っていると赤峰さんに後ろから抱きしめられた。

「意味調べました?」

「えっ、意味あったんですか?まだ調べてないです」

スマホでそのまま調べようとしたが赤峰さんに取り上げられてしまった。

「それはあとにして、構ってください」

くるりと後ろを向かされて、唇を塞がれる。背中に腕を回すとさらに口付けは深くなった。舌を絡め取られて、気持ちよさに頭がぼーっとしてくる。

「ベッドいきましょうか」

手を引かれて大人しく寝室へ着いていった。

すぐに部屋着を剥ぎ取られて、全身を愛撫される。くすぐったさに身を捩るとそれを咎めるように腕を掴まれた。

「だーめ。今日は緋山さんのこと甘やかしますから」

「ん、なんで」

「だって僕がチョコ貰うの見て拗ねてたじゃないですか」

「っ!?べつに拗ねてなっ」

「自覚なかったんですか?僕がチョコ貰うたび面白くないって顔してましたよ」

にやにやと嬉しそうな表情で俺を見下ろしてくる赤峰さん。たしかに恋人が他の女性からチョコを貰う姿を見るのは良いものではなかったけど、だからって拗ねているつもりはなかった。

「今朝緋山さんからチョコ貰えなかった時点でもうこれ今年はなしだって思ったんですよね」

だからちゃんと用意してくれて嬉しかったです。と今度は柔らかく微笑んだ赤峰さんに顔が熱くなる。

自分でも気づいていなかった感情を全て見透かされていて穴があったら入りたい気分だ。

でもこの状況で許されるはずもなく、赤峰さんの唇がしつこく全身を撫でていく。

「あっ、や、もうっ」

「欲しいんですか?」

ずっと指でじっくりと拡げられている後ろが疼いて仕方がなかった。快感に滲んだ視界で赤峰さんを見上げ、こくこくと頷く。

「じゃあ緋山さんが挿れてください」

「えっ」

ぐい、と腕を引かれて抱き起こされる。赤峰さんがベッドサイドの引き出しから避妊具を取り出して、それをつけるのをぼんやりと眺めていると抱き寄せられて入り口にあてがわれた。

「んっ」

早く欲しくて何も考えずに赤峰さんのそれを疼く中に受け入れる。

「あぁっ」

「っ、えろ」

イイところを掠めたそれに思わず背を反らすと余裕のなさそうな表情になった赤峰さんと目が合った。

「やっぱ僕が我慢できないからいいや」

「えっ、〜〜っ!?」

「っく」

勢いよくベッドに押し付けられて結局正常位で奥までそれを挿れられて、快感で頭が真っ白になった。

固くて熱いそれに貫かれて全身から力が抜けていく。

「あっ、あっ、あかみねさ」

「ん、イっていいですよ。何回でも」

にっこりと笑った彼に見下ろされて、今夜は長くなりそうだとぼんやりとする意識の中、覚悟を決めた。



結局赤峰さんが満足するまで付き合わされて、終わった頃には俺の喉はもう死んでいてカスカスの声しか出なくなっていた。

「来年は緋山さんから以外、バレンタインチョコ辞退しますね」

上機嫌な赤峰さんにちゅ、ちゅと顔中にキスを落とされながらそう言われたが、全身に彼からの愛を受けて満身創痍の俺は、勝手にしてくれとしか思えないまま目を閉じた。