guitar

「緋山さんってギター弾けるんですか?」
伊達原の部下、菊池が自宅周辺を張っているとわかり、江越に関する調査が難航しているフリをするために赤峰さんが俺の部屋へ来ることになった。はじめは今日の作戦について話していたがやがて話すこともなくなり、殺風景な部屋の中に不釣り合いなギターを見て赤峰さんがそう尋ねてきた。
「学生の時にちょっとかじってただけですよ」
空になったコップにペットボトルのお茶を注ぎながらそう答えると赤峰さんが目を輝かせた。
「えっ、弾いてみてくれませんか」
「たいした腕じゃないですよ」
「それでもいいんで!」
夜に明墨先生と江越が接触する予定になっているが、それまで俺たちはただ待機しているだけなので赤峰さんはすでに暇を持て余しているようだ。
「ほら、菊池もちゃんといますし」
窓の外に車が止まっているのを確認してこちらを振り返った赤峰さんの表情は期待で満ち溢れていた。
「一曲だけですよ。近所迷惑になりそうだし」
期待の眼差しに負けてギターを手に取る。壁の薄いこのアパートでは楽器の音は筒抜けになりそうだ。しばらく弾いていなかったからチューナーなんてものはないのでスマホのアプリでチューニングをする。弦ももう錆がひどい。音を合わせ終わったので咳払いを一つして歌い出す。
コードを覚えていた曲のワンフレーズだけ歌って、最後のコードを弾き下ろす。フレットを見ていた顔を上げると赤峰さんが大袈裟に拍手をくれた。
「緋山さん歌上手いですね!」
「おだてても何も出ませんよ」
もう一曲、なんて言われないようにギターを片付ける。
「いや本当に!すんなり弾き語りできるのがすごいです。今の何て曲ですか?」
「えーと、たしか曲名は"言えない"だったかな」
「言えない?秘密ってことですか?」
「そうじゃなくて、"言えない"っていう曲名なんです。昔流行ってた曲ですよ」
「へ〜」
こんなところでジェネレーションギャップを感じながらお茶を一口飲む。
「緋山さんの持ち歌かと思いました」
「なんですかそれ」
「緋山さんの声とぴったり合う雰囲気の曲だったので」
「そうですか?」
「はい。緋山さんの声って落ち着いていていいですよね」
僕、好きです。そう真っ直ぐ言われて何だか照れ臭くなる。声が良いなんて初めて言われた。
「…ありがとうございます。赤峰さんって変わってますよね」
「えぇ?どこがですか?」
「普通殺人犯と二人っきりになったり、声が良いって褒めたりしないですよ」
赤峰さんは俺が羽木を殺したと知っている。何ならその証拠を握っている。それなのに平然と接してくるあたりどこかネジが外れているとしか思えない。
「んー、でも緋山さんは誰かれ構わず殺したりしないですよね」
先程までの表情とは打って変わって真顔で真っ直ぐに見つめられて思わず言葉に詰まる。
「それに動画が手に入ったら自首すると言った緋山さんの言葉、信じてますから」
この部屋で全て打ち明けた時に約束したことだ。改めてその気持ちに嘘はないことを伝えるために、真っ直ぐに見つめ返して頷くと、赤峰さんは満足そうに笑った。