七夕

「今日七夕かー」
仕事が終わり、外の気温も下がってきたので二人で食料品の買い出しに向かうと、商店街の広場に七夕の笹が飾られていてそこにはたくさんの短冊がぶら下がっていた。
「せっかくだから僕たちも書いていきましょうよ」
赤峰さんに腕を引かれて笹の下まで行くと短冊が用意されていて、誰でも自由に願い事が書けるようになっていた。赤峰さんは短冊とペンを取ると俺に渡してくる。
「ほら」
「えー…全然思いつかないんですけど」
「こんなの書いたもん勝ちですよ」
「そういうもんですか…?」
悩む俺をよそに赤峰さんはすらすらと自分の分の短冊に願い事を書き始めた。それを横目にとくに面白みもない無難な願い事を書く。
「書けました?」
先に書き終わった赤峰さんがこちらを向いたので頷く。すでに短冊でいっぱいの笹の中からまだ飾れそうなところを探し出す。高めの位置に括り付けて落ちないように飾った。
「何て書いたんですか?」
「あっ、ちょっと見ないでくださいよ」
赤峰さんがそう言いながら俺の短冊をひっくり返した。
「え、これって」
「何も思いつかなくて」
俺が短冊に書いた願い事は、"家族が幸せでありますように"
両親がすでにいない俺にとって"家族"が何を指すのか、赤峰さんはすぐに察したみたいで何だか嬉しそうだ。
「もちろんモカも入ってますよ」
俺たちの大切な愛犬を照れ隠しで付け加えれば、当然と赤峰さんは笑った。
「僕も似たようなこと書いたんで嬉しくて」
俺の隣につけた短冊を赤峰さんは自分でひっくり返して見せてくれた。
"ずっと一緒にいられますように"
「もちろんモカも」
俺の真似をしてそう付け加えた赤峰さんは悪戯っぽく笑った。
「早く買い物して帰りましょう」
満足したのか赤峰さんはスーパーのある方向へ歩き出した。その後を一歩遅れて追いかける。
「モカに会いたくなっちゃいました?」
「きっと僕たちがいなくて静かだ〜って寝てるよ」
家を長時間空けることがほとんどないからか、モカはお留守番もとてもお利口にしてくれる。最初の頃はいたずら放題でそれはまあ大変だったが。
「そうじゃなくて」
赤峰さんが急に立ち止まったのでその背中にぶつかりかける。
「おっと」
思わず両肩に手をおくと赤峰さんが振り返って視線が交わった。
「緋山さんが嬉しいこと言うから抱きしめたくなっちゃいました」
自分としてはすごく無難な願い事のつもりだったので彼がここまで喜ぶとは思わなかった。恨めしそうにこちらを見た赤峰さんの頬に触れるか触れないかのキスをしてそのまま彼を追い越し、歩き出す。
「えっ?」
「ほら、早く行きますよ」
振り返ると俺が触れたところを手で押さえて驚いている赤峰さんがいて笑ってしまった。普段ぐいぐいくるくせにちょっと俺から仕掛けると良い反応をするから、そういうときばかりは年下らしくてかわいいと思ってしまう。
「も〜人が我慢してるのになんてことするんですか」
俺の腕をぽかりと殴って隣に並んだ赤峰さんはちょっと拗ねている。
「まあまあ。俺たちは別に織姫と彦星じゃないんだし時間はたっぷりありますから」
「緋山さんの口から織姫と彦星とか出てくると思いませんでした」
「…馬鹿にしてます?」
「いえ、意外とロマンチックなんだなって」
そんな軽口を叩きながら星空の下、二人で夜道を歩いた。