昼下がり

正午を過ぎたあたり、用事を終えて事務所へ戻る道すがら、中学生たちがぞろぞろと集団で下校しているところに出会う。聞こえてくる会話から判断するに試験期間で早めの下校らしい。テストの出来で盛り上がっているのを聞きながら懐かしい気持ちになる。
そんな学生たちを横目に歩いていると緋山さんのアパートの近くであることに気付き、寄ってみることにした。とくに連絡をしていないからいるかはわからないが、アパートの外階段を登ってインターホンを鳴らす。少し待ってみるが応答がないので外出中か、と踵を返そうとした瞬間ドアが開いた。
「赤峰さん?どうしたんですか」
「近くを通ったので寄ってみました。ついでに昨日わかったことの共有もできればと思いまして」
ラフな格好の緋山さんが出てきて、一応用事があることを伝えればすぐに部屋へ入れてくれた。
「というか不用心ですよ。誰かわかってからドア開けてください」
「はあ。俺にそれ言います?」
一時は報道で顔も出ていたし、マスコミが来ないとも限らない。僕たちの敵は他にもいるわけだし。本人はいまいち気にしていないようで不安だ。
部屋に入るとテーブルの上に茹でられた素麺と麦茶が置かれていた。
「昼食べました?」
「いえ、まだ」
事務所へ戻る前にコンビニでパンでも買って帰ろうと思っていたからお腹はぺこぺこだ。緋山さんは少し考えたあとテーブルの上を指さした。
「素麺でよければ食べます?少し茹ですぎたんで」
「食べます!」
即答すると緋山さんは呆れたように笑って、めんつゆを少し入れた器と生姜のチューブ、つゆを薄める用の氷水をすぐに準備してくれた。座布団がわりのクッションを渡してくれたのでその上に座り、手を合わせる。
「いただきます!」
「どうぞ」
素麺なんていつぶりだろう。実家にいた頃は夏によく食べていたけど、一人暮らしになってからは食べていない気がする。外でわざわざ食べるものでもないし。
「たまに食べるとおいしいです」
「そうですか?俺はもう飽きてますよ」
聞けば面倒くさくて昼はよく麺類になるらしい。
「この間カレーもご馳走になっちゃったし、今度は僕が何か奢りますね」
「赤峰さんが作ってくれるんじゃないんですか」
「僕に何を期待してるんですか。無理ですよ」
料理はできないわけではないが普段やらないし、なにより人様に食べてもらうようなものが出来上がるとも思えない。緋山さんは絶対思ってないだろうに残念、と肩を竦めた。

「緋山さんは学生の時、テスト勉強はコツコツやる派でしたか?」
来る途中に見かけた試験終わりの中学生を思い出しつつ、話を振ると緋山さんは素麺を勢いよくすすったあと首を振った。
「いや、一夜漬けっすね。大学の時はバイトばっかでそれすら怪しかったですし」
赤峰さんはコツコツやりそうですよね、そう言われて学生時代どうだったか思い出す。
「そうですね、僕はわりとコツコツ勉強してたかもしれません」
テスト前に慌てて、というよりは計画的に勉強して前日は睡眠をとることを優先していた気がする。
「というか俺と赤峰さんじゃそもそもの頭のつくりが違いますよ」
あと食べてください、と緋山さんは素麺が盛られた皿を僕の方へ押したので遠慮なく残りを頂く。
「そんなことないと思いますけど。僕、要領悪いですし」
「あー、たしかに。初めて会った時はそんな感じしました」
「失礼な!」
むっとすると、緋山さんはふっと笑った。
「自分で言ったんじゃないすか。それに今は別に思ってませんよ」
食べ終わったのでごちそうさまと手を合わせると緋山さんが空になった器を持って立ち上がった。せめて洗い物ぐらいはと思ったが、後で洗うからいいと断られてしまったので大人しく座り直す。
「会ってそんなに経ってないはずなのに変わりましたよね、赤峰さん」
冷蔵庫から麦茶を持ってきて注ぎ足してくれたのでそれにお礼を言いつつ考える。
「そうですかね。たしかに明墨先生のところに来て考え方は変わったかもしれません」
理由があったとはいえ、目の前の殺人犯を無罪にしてしまうような人だ。傍にいれば自然と考え方も変わっていく。それでも元からある信念は曲げていないつもりだ。
「俺は先生より赤峰さんの方が怖いですよ」
そう言って緋山さんは僕から目を逸らすように窓の外へ視線をやった。