続・鍋焼きうどん@−Saboー


大学に入ると同時にこの部屋を借りて一人暮らしを始めた。
入居の時に「困ったらこいつに言ったら何とかなるから」と紹介されたのがマナだった。
当時は今よりスペースがよそよそしい空気だったし、生活時間帯もずれてたから、あんま話す機会はなかった。
よく話すようになったのは2年後、マナが就職してオレがゼミに進んだあたりから。
お互いに深夜帰宅の妙な連帯感から、自然とスペースで話をすることが多くなった。

深夜にコーヒーを飲みながら、その日あったことを話して、気持ちを緩めて眠りにつく。
「こういう、人と話すと気持ちがほどける感じを、ほかの人にも知ってほしいんだけどね」と
たまにマナが言っていた。

でも。
どれだけ気持ちを緩めても、体力には限界がある。
秋、指導者だった先輩が産休に入ってから、マナの休日はなくなった。
そこから一年半の間に完全な休日は10日もなかったと後から聞いた。
マナはどんどん痩せて、夜もスペースで勉強するせいであまり寝なくなって、
でも仕事の精度はどんどん上がって、移植成功率が8割を超えて。
渦巻く不調を薬でねじ伏せる日々を続けたマナはある日、生死の境を彷徨うような病気に飲み込まれた。




「・・・サボ?どうしたの、伸びちゃうよ?」
現実の声に引き戻されて回想から抜け出す。
ああそうだ、今日の夜食が鍋焼きうどんだったから。

「いや、一番初めに作ってもらったのもこれだったなと」
「そうだっけ?その時よりは上手にできてるでしょう」


スペースで倒れてるのを見つけたのはオレだった。
でもその時のことは良く覚えていない。
ともかく必死で管理人と119番に電話して。
そこで初めて、マナがこのマンションの所有者で、身寄りがいないということを知った。

「うん、まあ、あの時もおいしかったけど」
「ありがと」

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