続・鍋焼きうどんA−Saboー


「やーでも、あの時は焦った」
「…ほんと、サボさんは私の命の恩人です」

仕事がものすごく忙しくて、日常的にどこかしら調子が悪くて、
その時も何日か前から発熱と頭痛があって、風邪だろうと思って薬を処方してもらって。
あの日、顕微鏡で見る光がいつもより眩しく見えて、ちょっと早めに帰って。
で、スペースにつく頃にはもう頭痛が激しすぎて吐きそうになってて、そこから覚えてない。

どうやら髄膜炎で意識障害を起こしたらしい。
致死率の高い病気だから、もしあの日、たまたま帰りが早かったサボがまっすぐ自室に帰ったり、
帰りが遅かったりしたら、私は今ここにいたかどうかわからない。

目が覚めたらサボがいて、あとビビとそのお父様が駆けつけてくれてて、
すぐサボにものすごく怒られた。
「人の命育てる仕事してるやつが、自分の命削ってどうするんだ!!」

「ほんと、その通りだったな」
「なにが?」
「サボの啖呵のはなし」
「ああ、あれね」

退院した後にお礼としてサボに初めて作ったのが鍋焼きうどんだった。
その日も帰りが遅かったサボに、夜食として。
で、スペースの使い勝手があんまりよくないことに気づいた。
もっと使いやすかったら、もっと人が集まるんじゃないかと思った。

「あの後急にスペースの工事始まったから驚いたよ」
「うん、…なんかそうしなきゃいけない気がして」

一度死にかけたと思うと、もうやりたいことをやろうと思うようになった。
まず、2年勤めた職場も辞めて、ビビのお父さんに弟子入りして不動産管理を教わった。
仕事は時短勤務できるものにして、学生時代にできなかったバイトも始めた。
皮肉なことに、時短勤務にしたほうが移植の成功率は上がっていった。

そして、新しくしたスペースで、住人に料理をふるまうようになった。
一日の終わりに、誰か一人でも気持ちをほどいて眠りにつけたらいい、そう願いながら。


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