ホットケーキA−Shanks−


廊下を逆行し階段を上がっていくわずかな足音を聞きながら、気づかれないように口の端で笑う。

なんとなく、今日マナと会った時から何かあったと感じていた。
それも、男がらみで。

それが今去って行った足音の主なのかは定かじゃないが、何らかの抑止力にはなるだろう。

「焼けたよー」
「お、旨そうな匂いだな」
「私も食べよーっと」

相変わらず料理の腕はいい、むしろ前より腕を上げたように思う。
一緒に住んでいた頃と比較しても、こんな単純な菓子でさえ、上手になったと感じるから不思議なもんだ。

「なァ、そろそろ戻って来いよ」
「…私の家はここだから」
「どうしてもか」
「どうしてもだね」
「いいじゃねえか別に」
「毎月その話されるとさすがにねえ」
「クリスマスも正月も顔出さなかったじゃねえか」
「…そう言われましても」

マナはいつも通り困った顔を見せるが、いつも通り折れることもない。
基本的にはこだわりのない奴だが、ある点においてはテコでも動かない頑固さを持っていて、
その頑固さが一番発揮されるのがこの「どこに住むか」だった。

「いいじゃない、こうやって毎月会ってるんだからそれで」
「いやオレはそれじゃ満足しねえ」
「はあ…」

結局はどちらも折れずに現状維持になることはわかりきってる。
でも、毎月このやり取りをするのが楽しみになってきちまったって、伝えたらこいつは怒るだろうか。

「春までには一度来いよな」
「そっか、誕生日だね」
「盛大に祝ってもらわねえと」
「そうね、それは考えとく」

できればそのまま家に居付いてくれたら最高なんだがなあ。

「そういえば、あのセカンドハウスってまだ買い手着いてないんだよね?」
「あ、不倫ハウスのことか?」
「その呼び方辞めてって言ったじゃない」
「そうか、愛人ハウスだっけか」
「だからそれも嫌だってば」

こいつの怒ったり困ったりしてる顔を見るのが月一の楽しみになりつつあって、
そのために毎月なんだかんだ乗り切ってるんだよなあと、眉間に寄せたシワを眺めながら思っていた。



- 23 -

*前次#


ページ: