豚柳川−Zoro−


上司から良い日本酒をもらった。
これは酒盛りだ、と、近所の住人に連絡を入れる。

『獺祭に合う3品』
『了解。メインは肉?魚?』
『肉で』

19時、帰宅すると料理のにおいが玄関まで漂っている。
「ゾロ、早かったね!」
「もう出来てるか」
「うん!」

ここに住んで初めて知った料理、柳川。
本物は魚で作るらしいが、肉でも十分旨い。
とにかく酒が進む。

「あとクリームチーズ山椒和えと、塩辛にした。」
「上等だな」
「うふふ、いいでしょ」

いつものように隣に座る住人にも酒を注いでやる。

「金曜日だからみんな遅いだろうねー」
「あァ?問題でもあんのか」
「んーん、獺祭ふたりじめだなーと思って」

一瞬、口説かれてぇのかと思ったが、測りかねてるうちに当の本人は別の話題に移っている。

距離感が近いように見えて、捉え所がない。
面と向き合おうとするとするりと躱される。
よく考えればこいつがどこでどんな仕事してるかも知らない。

「なァ、お前、何の仕事してんだ」
「いきなりなに」
「いや、知らねえなと思ってよ」
「うーん・・・いろいろ・・・じゃ、答えにならないか」

よく考えたらこんなに毎日家にいるのもおかしくねえか?

「基本的には医療系の技術職をしてて、10時〜16時の時短勤務してる」
「ほお」
「技術職は週3日で、あとの2日は副業で家事代行とベビーシッターをしてて」
「あァ」

自分はこいつのことを何も知らなかったんだと、話に相槌を打ちながら思っていた。


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