とても短い話
1000文字に満たない話、ネタなどを置いています。
名前変換はありません。

甘やかしたい荀ケ
「ええと……、どういう状況?」
「起きられましたか」
「うん、たった今ね」
「喜ばしいような、少し残念というような―――いえ、何でもありません」
「ばっちり聞こえてるからね。今更取り繕っても駄目だよ。いや、それより説明してほしいんですけどこの体勢」
「柱にもたれて眠っていらっしゃったので、僭越ながら私が枕代わりを務めさせていただきました。男の太腿では硬いことこの上なく寝心地は悪いでしょうが、柱よりかは幾分寝やすいだろうと思いまして」
「荀ケ殿がやるようなことでは―――失礼。文若殿」
「……まだ字名は慣れませんか」
「すみません」
「いえ、良いのです。呼ぶ機会はこれからたくさんありますから、そのうち慣れるでしょう」
「それでもこの体勢だけはいつでも慣れませんよ―――って文若殿?何故急に頭を撫でるんで?」
「常に冷静沈着で泰然としているあなたの困った様子は、いけないと知りつつも少し、嬉しく思ってしまいます。伴侶たる私にだけ見せてくれるのではないか、と浅ましい期待を抱いて」
「文若殿……」
「それだけではありません。以前のあなたはこうして白天に寝顔を晒して余人に触らせることはなかった。その変化が私は望外に嬉しいのですよ」
「今の自分に触れるのは文若殿だけですから」
「そうでしたね」
「(戦傷で傭兵として使えなくなった自分を囲むなど文若殿くらいだ)」
「あの時、勇を出してあなたに想いを告げてよかった。でなければあなたはあのまま人知れず行方をくらませていたでしょう?」
「剣を持てない剣客など笑い物だからね。ただ飯食らいになるわけにもいかないし。……文若殿に身を寄せるとは思わなかったけど」
「あなたの意表を突けるとは光栄です」
「こら、喜ぶな」
「先んじて曹操殿の許しは得ていました。万一あなたの身が損なうことがあれば私の下に引き渡してほしい、と」
「手早いね、文若殿」
「…………四方を囲めど余裕は持てませんでしたよ」
「何故?」
「士官するより前は流浪していた身。武芸者として各地を流転し、一箇所に根を張らない。そんな生活に戻らせてはここへ訪れることはないだろうと思ったのです」
「否定できない……」
「だからあなたが身を隠すより前に動く必要があった。しかしどれほど動いても溝を埋めても退路を断っても、気が休まった夜はありませんでした。この月が沈めば会えなくなるのではないか、情けなくもあなたを見送る都度臆していました」
「頻繁の誘いはそんな意図があったのか……。全然気づかなかった……」
「気づかれなくてこちらは安堵する思いです。今なら言えますが、当時はあなたに失望されたくない一心でしたから」
「文若殿らしいね」
「―――あなたは」
「うん?」
「後悔……していませんか?私の下へ来たことを」
「いつ死んでも後悔ないように生きてる私が、唯一別れを惜しんだ人だからね。責任取ってもらわないと」
「それは…………。―――ええ、はい。この荀文若、命ある限りあなたの傍に居ると誓いましょう」
「(嬉しそうに笑っちゃってまあ……)」
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