頭上から降り注ぐ氷のような声。感情を削いだ冷たい声。冷水をかぶったみたいに全身が硬直し、動けなくなる。動かないとまずい状況を理解していて尚、だ。
「貴様が謝ろうとも、決して許さぬ」
無機質な硬い声にあきらか怒りが乗る。体の芯から冷えていく。さっと血の気が失せた私に切っ先が向けられた。研がれた刃は鋭利な一閃を放ち、獲物を食らわんとするようだ。恐怖に張り付いた喉を引き剥がすこともできず、剣が振り下ろされる。反射的に瞑目したが、それゆえに受身を取ることが叶わずに地面を転がる。窮屈さが消えた代わりに、無数の石たちが肌に食い込んだ。痛みに目を開けると、鼻先に突き出た靴の先が見え、おそるおそるそれを辿っていけば、静かに怒りを散らす我が主が佇んでいた。
「私が大切にしている壺に身を潜めれば、手は出さないと思ったか。貴様はつくづく頭の足りぬ暗愚よ。飼い主自ら躾てやらねば覚えんか」
下に向けられた剣の先が自分の顎を掬う。幾人もの敵を斬ってきた剣の冷たさと硬質感が、鮮明に伝わってくる。喉は張り付いたまま動かず、口の中が乾いてきた。陽光を背に受ける我が主の尊顔は見えない。
「だがそうと知って拾ったのは私だ。なら飼い犬の不始末も躾も私がせねばなるまい。何処までも手のかかる奴だな、貴様は」
言葉は果てなく冷たいものなのに、声は僅かに嬉しそうだった。胸中を占めるは深い絶望と悔悛。だが諦めもここまで来ると開き直るらしい。風通しのよくなった胸に頭が冴え渡る。さて、今日は何処まで耐えられるだろうか。覚悟を決めたのと、剣先が離れていくのは同時のことだった。
「―――せいぜい私を飽きさせぬよう鳴け、犬」
攻撃を食らって浮遊する自分の体。青く透き通った空を仰ぎ、悪戯心で主の葡萄を食べたことを深く後悔した。
逃がしはしない