「はいはいっと。飯の時間ですよー、軍師殿」
「あっ、ちょっと……!」
書きかけの竹簡をひょいと横取りし、代わりに置かれたのは食事の皿を乗せた膳だった。作りたてらしくどれも湯気を上らし、匂いが鼻先をくすぐる。竹簡を追って彼を睨めつけてもまるで効果はない。
「そんなに睨んでも返しませんよ。まずはご飯を食べてください」
「必要ない」
「名前殿が嫌と言っても殿から頼まれてるんですよ、俺。飯を食わせ、寝かせ、敵から守れってね」
曹操殿には先の戦でその手腕に打たれ降って以降、軍師として仕えている。生来の不眠症と少食は、未だ拠って立つ場所を定めぬ主の現状によって加速し、二日三日飲まず食わずで夜を明かすことも数知れず。不摂生を懸念する殿から何度も苦言を呈されるが聞き入れたことはなく、頑迷に拒む私にとうとう匙を投げたと思ったが、執った行動がまさかの人をつけ世話させるというものだった。
「殿の命令しか聞かないんで」
と、さながら内心を悟ったかのように念を押すので、堪らず舌を打った。
「―――っ」
胸を衝く苦しさに咳き込む。何度も激しく咳き込むのを見て、彼は慣れた手つきで薬を煎じ、薬湯を差し出した。
「無理しないでください」
「無理してない」
「そうですかね?少なくとも体の方は悲鳴を上げてますが」
ほれ見ろといわんばかりの態度に苛立ちつつも薬湯を呷る。尾を引く苦味に眉根を寄せ、口直しにと食事に手をつける。食べ始めた私の傍で、彼は手持ち無沙汰を埋めるように散らかった竹簡を棚へ収めていく。食器の音と竹簡の音だけが響く室内で、突然。
「体、大事にしてくださいよ」
こちらに背中を向ける体勢でそう言った。